はじめに――お金を貸すときに最初に考えること
あなたが誰かにまとまったお金を貸すとしたら、真っ先に何を心配するだろうか。
おそらく「本当に返ってくるのか」という一点に尽きるはずだ。貸したお金を確実に回収するための手段として、民法は大きく2つの仕組みを用意している。
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 物的担保 | 抵当権 |
| 人的担保 | 保証債務 |
この章では、まず抵当権を徹底的に理解していこう。
1. 抵当権とは何か(民法第369条)
抵当権者(債権者)は、債務者が債務を履行しない場合、抵当権の目的物を競売に付し、その売却代金から被担保債権の弁済を受けることができる。
仕組みのイメージ
【抵当権設定時】
B(抵当権者・債権者) ──1億円を貸す──▶ A(抵当権設定者・債務者)
└─ Aの自宅に抵当権を設定
【Aが返済できない場合】
Aの自宅を競売 ──代金をBへ──▶ B(債権回収)
C(買主)が代金を支払う先はAではなくB
ポイント解説
(1) 抵当権の基本的な流れ
たとえば、AがBから1億円を借り、自分の自宅を抵当に入れたとする。Aが約束どおり返済すれば何も問題は起きない。問題が生じるのは、Aが返済できなくなったときだ。
このときBは抵当権を実行し、Aの自宅を競売にかけられる。Cが買主として名乗り出た場合、Cは代金をAではなくBに支払う。こうしてBは貸したお金を取り戻せる。これが抵当権という仕組みの本質だ。
(2) 設定は意思表示だけで足りる
抵当権の設定に、登記・引渡し・書面作成は必要ない。抵当権は物権変動の一種であり、当事者間の合意(口約束)だけで有効に成立する。
(3) 登記は対抗要件
抵当権を設定した後も、AはそのままAの自宅に住み続けることができるし、第三者Dに売却することも自由だ(Bの承諾は不要)。
ただし、BがDに対して自分の抵当権を主張するには、抵当権の登記が必要になる。
| 場面 | 登記の要否 |
|---|---|
| 当事者AB間 | 登記がなくても効力が生じる |
| 第三者Dへの対抗 | 登記がなければ対抗できない |
(4) 妨害排除請求
Aが抵当権の目的物である自宅を壊そうとした場合、Bはそれを止めるよう請求できる。これを妨害排除請求という。目的物が毀損されれば、Bは競売によって弁済を受けられなくなるからだ。
✅ 例題
「抵当権は、目的物の引渡しは効力の発生要件ではない」――正しいか?
答え→ここをクリック
正しい。 抵当権の設定は当事者間の合意のみで成立するため、引渡しは効力の発生要件とならない。
2. 抵当権の効力はどこまで及ぶか(民法第370条)
抵当権の効力が及ぶ範囲は次のとおりだ。
| 対象 | 具体例 |
|---|---|
| ① 付加一体物(付合物) | 雨戸、増築部分 など |
| ② 抵当権設定時からあった従物・従たる権利 | 畳、借地権 など |
※ 抵当権設定後に備え付けられた従物には、原則として抵当権の効力は及ばない。
ポイント解説
(1) 何と一緒に競売できるか
家の中のテレビや家具は、抵当権の目的物とは別の動産であるため、家と一緒に競売することはできない。
一緒に競売できるのは、①雨戸のように建物と一体化した付加一体物と、②畳のように建物に密接に従属する従物や従たる権利だ。
借地権にも及ぶ
借地上の建物に抵当権を設定した場合、その効力は、設定時から存在していた借地権にも及ぶ。建物だけを競売しても借地権がなければ意味をなさないため、当然の帰結といえる。
(2) 天然果実と法定果実
| 種類 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 天然果実 | 物の用法に従い収取される産出物 | リンゴ、野菜 |
| 法定果実 | 物の使用の対価として得られる金銭 | 地代、家賃 |
原則として、どちらにも抵当権の効力は及ばない。たとえばリンゴ畑に抵当権を設定した場合、土地やリンゴの木には効力が及ぶが、収穫されたリンゴの実には及ばない。「これまでどおり収益を上げて早く返済してほしい」という趣旨だ。
例外として、債務不履行(返済の遅滞など)が生じた後は、天然果実・法定果実のいずれにも抵当権の効力が及ぶようになる。
✅ 例題
「抵当権の対象不動産が借地上の建物である場合、特段の事情がない限り、抵当権の効力は建物だけでなく借地権にも及ぶ」――正しいか?
答え→ここをクリック
正しい。 借地上の建物に抵当権を設定した場合、効力は借地権にも及ぶ。
3. 抵当権はどこに設定できるか(民法第369条後段)
| 設定できるもの | 設定できないもの |
|---|---|
| 不動産(土地・建物) | 賃借権 |
| 地上権 | |
| 永小作権 |
ポイント解説
土地や建物に抵当権を設定できることは直感的に分かる。試験で問われるのは「地上権・永小作権には設定できるが、賃借権には設定できない」という点だ。ここは確実に押さえておこう。
✅ 例題
「地上権を目的とする抵当権は設定できるが、賃借権を目的とする抵当権は設定できない」――正しいか?
答え→ここをクリック
正しい。 地上権には抵当権を設定できるが、賃借権には設定できない。
4. 抵当権の順位はどう決まるか(民法第373条等)
| テーマ | 内容 |
|---|---|
| 順位の決め方 | 登記の先後で決まる |
| 順位の変更 | 抵当権者全員の合意+利害関係者の承諾(設定者の承諾は不要) |
| 先順位の消滅 | 後順位の抵当権が自動的に繰り上がる |
ポイント解説
(1) 複数の抵当権が設定された場合
一つの不動産に複数の抵当権を設定することは可能だ。たとえば、AがBから8,000万円を借りて自分の土地に抵当権を設定し、さらにCからも8,000万円を借りて同じ土地に抵当権を設定したとする。
この場合、BとCの優劣は登記の先後によって決まる。先に登記したBが一番抵当権者、後から登記したCが二番抵当権者となる。
(2) 競売代金の配分
Aの土地がEに1億円で競落された場合の配分は次のとおりだ。
競売代金:1億円
┌─────────────────────────────┐
│ 一番抵当権者 B(先に登記) │
│ 債権額 8,000万円 → 全額回収 │ 8,000万円
├─────────────────────────────┤
│ 二番抵当権者 C(後に登記) │
│ 債権額 8,000万円 → 残額のみ │ 2,000万円
├─────────────────────────────┤
│ 一般債権者 D(担保なし) │
│ 債権額 8,000万円 → 回収ゼロ │ 0円
└─────────────────────────────┘
(3) 利息の優先弁済の範囲
BはAに対する元本8,000万円については全額優先的な弁済を受けられるが、利息については最後の2年分に限って優先弁済を受けられる。後順位債権者との公平を保つための制限だ。
ただし、他に競合する債権者がいない場合はこの制限は適用されず、利息の全額について抵当権による満足を得ることができる。
(4) 順位の変更
BCが合意して抵当権の順位を入れ替えることは可能だ。ただし、順位変更には次の要件を満たす必要がある。
- 抵当権者全員(B・C)の合意
- 利害関係者(転抵当権者など)の承諾
抵当権設定者Aは利害関係者には当たらないため、Aの承諾は不要だ。
(5) 順位の繰り上がり
AがBへの債務を完済した場合、Bの一番抵当権は付従性によって消滅する。すると、Cの二番抵当権は自動的に一番抵当権へと繰り上がる。以後Cが抵当権を実行すれば、8,000万円の全額について優先弁済を受けられることになる。
✅ 例題
AがBから3,000万円を借りて甲土地に一番抵当権を設定し、さらにCから500万円を借りて甲土地に二番抵当権を設定した。BとCが合意すれば、Aの同意なしに抵当権の順位を変更できるか?
答え→ここをクリック
できる(正しい)。 順位変更に必要なのは①抵当権者BCの合意と②利害関係者の承諾であり、抵当権設定者Aの同意は不要だ。
ここまでのまとめ
| 項目 | ポイント |
|---|---|
| 抵当権の成立 | 当事者の合意のみ(登記・引渡し・書面不要) |
| 登記の役割 | 第三者への対抗要件 |
| 効力が及ぶ範囲 | 付加一体物・設定時の従物と従たる権利(借地権含む) |
| 果実への効力 | 原則及ばない/債務不履行後は及ぶ |
| 設定できる権利 | 不動産・地上権・永小作権(賃借権は不可) |
| 順位の決定 | 登記の先後 |
| 順位変更の要件 | 抵当権者全員の合意+利害関係者の承諾(設定者の承諾不要) |
| 先順位消滅の効果 | 後順位が自動的に繰り上がる |
5. 法定地上権の成立要件(民法第388条)
法定地上権が成立するためには、次の2つの条件を同時に満たす必要がある。
| 条件 | 補足 |
|---|---|
| ① 抵当権設定時に、土地の上に建物が存在していた | 設定後に建物が滅失・再築されても成立する |
| ② 設定時に、土地と建物が同一人の所有だった | 設定後に一方が第三者に譲渡されて別々の所有者になっても成立する |
なぜ「法定地上権」が必要なのか
たとえば、Aが自分の庭付き一戸建てを所有しており、Bから1億円を借りる際に土地だけに抵当権を設定したとする。その後、抵当権が実行されて土地が競売に付され、Cがその土地を取得した場合、どうなるだろうか。
土地の新たな所有者となったCは、理屈のうえではAに対して「私の土地から建物を撤去して明け渡せ」と主張できることになる。しかしそれでは、Aにとって酷であるだけでなく、멀쩡한 멀쩡한 멀쩡한まだ使える建物を取り壊すことになり、社会全体にとっても大きな損失だ。
そこで民法は、このような場合にAが自動的に地上権を取得できるという解決策を用意した。法律上当然に発生するこの地上権を法定地上権と呼ぶ。
試験で必ず押さえる追加ポイント
- Aの建物が未登記であっても、法定地上権は成立する
- 土地と建物の両方に抵当権が設定された場合でも、法定地上権は成立する
✅ 例題
AがBから3,000万円を借り、A所有の甲土地に抵当権を設定した。設定時、甲土地上にはA所有の建物が存在しており、その後AがこれをCに売却した。Bが抵当権を実行してDが甲土地を競落した場合、DはCに対して甲土地の明渡しを求めることができるか?
答え→ここをクリック
できない(正しい)。 抵当権設定時に、土地・建物ともAの所有だったため、成立要件②を満たす。その後Cへ建物が譲渡されて所有者が分かれても法定地上権は成立し、CはこれをDに対抗できる。よってDからの明渡し請求は認められない。
6. 一括競売とは何か(民法第389条)
更地に抵当権が設定された後、その土地に建物が建てられた場合、抵当権者は土地と建物をまとめて競売できる。ただし、優先弁済を受けられるのは土地の売却代金からのみだ。
一括競売が認められる理由
AがBから1億円を借り、自分が所有する更地(建物がない状態の土地)に抵当権を設定したとする。抵当権を設定した後も、Aはその土地を自由に使用・活用でき、建物を建てることも可能だ(Bの承諾は不要)。
しかし、建物が建った後に土地だけを競売しようとすると、買い手がつきにくく、現実的に困難になる。
そこで、このような場合にBは土地と建物を一括して競売できることとした。これが一括競売だ。
ただし、抵当権はもともと土地だけに設定されていたため、Bが他の債権者に優先して弁済を受けられるのは、あくまで土地の売却代金の範囲に限られる。建物の売却代金については優先権はない。
一括競売が認められる場面・認められない場面
| 場面 | 一括競売の可否 |
|---|---|
| 更地に抵当権設定 → その後建物が建築された | ✅ できる |
| 最初から建物がある土地に抵当権を設定した | ❌ できない(土地のみ競売) |
✅ 例題
庭付き一戸建てを所有するAが、債権者Bのために土地だけに抵当権を設定した場合、Bは土地と建物を一括して競売できるか?
答え→ここをクリック
できない(誤り)。 一括競売が認められるのは、更地の状態で抵当権が設定された後に建物が建てられたケースに限る。最初から建物が存在する土地への抵当権設定では一括競売は認められず、Bは土地だけを競売するしかない。
7. 建物賃借人の明渡猶予(民法第395条)
抵当権が設定されている建物(土地は対象外)を賃借している者は、抵当権が実行されて競売が行われた場合でも、買受けの時から6カ月間は明渡しを猶予される。
場合によって結論が変わる
(1) 賃借権が抵当権に対抗できる場合 → 賃借人の勝ち
AがCに建物を賃貸し、Cが賃借権の対抗力を備えた(登記、または建物の引渡しを受けた)後で、AがBから借金をしてその建物に抵当権を設定したとする。
この場合、Cの賃借権はBの抵当権に優先する。よってBが抵当権を実行してDが競落人になっても、CはDへの明渡しを拒否できる。
(2) 賃借権が抵当権に対抗できない場合 → 猶予期間6カ月
これとは逆に、BがすでにAの建物に抵当権を持っている状態で、CがAから建物を賃借して対抗力を備えた場合、Cの賃借権はBの抵当権に対抗できない。
この場合、抵当権が実行されてDが競落人となれば、CはDに建物を明け渡さなければならない。しかし、突然「今すぐ出て行け」と言われるのはあまりにも酷だ。
そこで民法は、買受けの時から6カ月間の猶予をCに与えることにした。
重要な注意点
この明渡猶予の制度が適用されるのは建物の賃借人のみだ。土地の賃借人には適用されない。この点は試験頻出のひっかけポイントだ。
✅ 例題
抵当権者Aに対抗できない賃貸借により甲土地を競売手続開始前から使用するBは、競売における買受人Cの買受けの時から6カ月を経過するまでは、甲土地をCに引き渡さなくてよいか?
答え→ここをクリック
引き渡さなければならない(誤り)。 明渡猶予の6カ月ルールは建物の賃借人に適用される制度であり、土地の賃借人には適用されない。BはCからの請求を拒めない。
8. 第三取得者の保護(民法第379条等)
抵当権が設定された不動産を購入した者(担保不動産の第三取得者)は、次の3つの方法によって、その不動産に付いている抵当権を消滅させることができる。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| ① 被担保債権の弁済 | 債務者に代わって借金を返済する |
| ② 抵当権消滅請求 | 一定の手続きのもとで抵当権者に消滅を請求する |
| ③ 代価弁済 | 抵当権者の請求に応じて売買代金を支払う |
ここまでのまとめ
| 項目 | 核心ポイント |
|---|---|
| 法定地上権の成立 | ①設定時に建物が存在+②同一人所有(両方必要) |
| 一括競売 | 更地設定後の建築が前提/優先弁済は土地代金のみ |
| 明渡猶予 | 建物賃借人のみ・6カ月/土地には不適用 |
| 第三取得者の救済 | 弁済・消滅請求・代価弁済の3択 |
第三取得者の保護――3つの方法の詳細(民法第379条等)
(1) 第三取得者とは?
Aの土地には、BのAに対する1億円の債権を担保するための抵当権が設定されていた。そこへCがAからこの土地を8,000万円で購入したとする。このCを第三取得者という。
Cとしては、抵当権が実行されて苦労して手に入れた土地を失うのは何としても避けたい。そのために使える手段が次の3つだ。
(2) 方法① 被担保債権の弁済
抵当権は被担保債権を担保するための権利であり、その債権が消滅すれば付従性によって抵当権も自動的に消滅する。
つまり、CがAに代わってBに1億円を弁済すれば、抵当権は消える。Cは「弁済をするにつき正当な利益を有する第三者」に該当するため、たとえAの意思に反しても弁済が可能だ。
弁済後、CはAに対して1億円を**求償(償還請求)**できる。ただし、Aのために1億円を立て替えてやる義理はない、と考えるなら次の手がある。
(3) 方法② 抵当権消滅請求
これは第三取得者だけに認められた、いわば切り札的な制度だ。
手続きの流れ
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① Cが通知 | Bに書面で「○○円を払うから抵当権を消してほしい」と申し出る。金額はCが自由に設定できる(土地代金の8,000万円より高くても低くてもよい) |
| ② Bが承諾 | CがBに8,000万円を弁済すると、被担保債権が完済されていなくても抵当権は消滅する。残る2,000万円はBのAに対する無担保債権となる |
| ③ Bが拒否 | Bが提示額では不服であれば、2カ月以内に競売を申し立てることができる。この期間内に申し立てをしなければ、承諾したものとみなされる |
注意点
債務者本人や保証人は、この抵当権消滅請求を利用できない。彼らが抵当権を消したければ、正面から債務を弁済するのが筋だからだ。
抵当権消滅請求の重要ポイント
- 抵当権が実行される前であれば、Cはいつでも申し出ることができる
- 請求が完結するまでの間、CはAへの代金支払いを拒絶できる(支払ってしまうと求償で戻ってくるとはいえ、やり取りが煩雑になるため)
(4) 方法③ 代価弁済
Cに抵当権消滅請求という手段がある以上、Bとしても「売買代金をそのまま自分に払ってもらえればそれでよい」と判断するのは合理的だ。この発想から生まれた制度が代価弁済だ。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① Bが請求 | BがCに対して「Aではなく私に土地代金8,000万円を支払ってほしい」と求める |
| ② Cが弁済 | CがBに8,000万円を支払うと抵当権は消滅する。残る2,000万円はBのAに対する無担保債権となる |
抵当権消滅請求がCからの働きかけであるのに対し、代価弁済はBからの働きかけによって始まる点が対照的だ。
(5) 3つの方法がすべて使われなかった場合
①②③のいずれも実行されないまま抵当権が実行された場合、Aの土地は競売にかけられる。しかし、この場合でもCが競売に参加して自ら競落すれば、土地の所有権を守ることができる。第三取得者も競売の買受人になれる点は覚えておこう。
(6) 抵当権の時効消滅――主張できる人・できない人
抵当権が実行されないまま20年が経過すると、抵当権は時効によって消滅する。Cは抵当権の付いていない土地の所有者として扱われる。
ただし、誰でもこの時効消滅を主張できるわけではない。
| 立場 | 時効消滅の主張 |
|---|---|
| 債務者・抵当権設定者 | ❌ 主張できない |
| 第三取得者・後順位抵当権者 | ✅ 主張できる |
9. 抵当権の4つの性質
性質① 物上代位性(民法第372条)
目的物が滅失・売却・賃貸等によって金銭その他の請求権に転化した場合、抵当権者はその金銭等を差し押さえて優先弁済を受けることができる。ただし、差押えは債務者への支払い前に行わなければならない。
滅失の例
AがBから1億円を借り、A所有の建物に抵当権を設定した。その後、この建物が火災で焼失した場合、Bの抵当権はどうなるか。
Aが火災保険に加入していれば、Aは保険会社に対する保険金請求権を持つ。これは建物が形を変えたものと考えられるため、Bの抵当権はこの請求権の上に存続する。Bは、Aが保険金を受け取る前に差し押さえれば、その保険金から弁済を受けられる。
売却・賃貸の場合も同様
建物を売却した場合の売買代金や、賃貸した場合の賃料についても、Aへの支払い前であればBは差し押さえることができる。Aが受領してしまった後では物上代位はできない。
他の担保物権との関係
物上代位性は抵当権に固有の性質ではなく、先取特権・質権にも認められる。ただし、留置権には物上代位性がない点に注意。
✅ 例題
「抵当権の目的物が滅失した場合、抵当権の効力は、その滅失によって債務者が受け取るはずの金銭にも及ぶ」――正しいか?
答え→ここをクリック
正しい。 目的物が形を変えた金銭(保険金など)の上に抵当権は存続する。
性質② 不可分性(民法第372条準用)
担保物権は、被担保債権が全額弁済されるまで、目的物の全体に効力を有する。
具体例
AがBから1億円を借り、100㎡の土地に抵当権を設定した。AがBに9,900万円を返済した場合、残り1%にあたる1㎡分だけに抵当権が縮小されるか?
答えはノーだ。最後の1円が返済されるまで、抵当権は100㎡の全体に効力を持ち続ける。この性質を不可分性という。抵当権以外の担保物権にも共通する性質だ。
✅ 例題
「担保物権は、被担保債権の全額が弁済されるまで、目的物全部に効力を有する」――正しいか?
答え→ここをクリック
正しい。 これが不可分性であり、各種担保物権に共通する性質だ。
性質③ 随伴性(民法第369条等)
被担保債権が第三者に譲渡されると、抵当権も自動的に一緒に移転する。
具体例
AがBから1億円を借り、A所有の土地に抵当権を設定した。BがAに対する1億円の債権をCに譲渡すると、抵当権もCへ自動的に移転し、CのAに対する債権を担保することになる。これを随伴性という。
物上保証人がいる場合の注意点
債務者と抵当権設定者は必ずしも同一人物ではない。債務者以外の者が自分の不動産に抵当権を設定する場合、その者を物上保証人という。
この場合でも随伴性の働きは変わらない。被担保債権の譲受人Dは、AへのAに対する債権譲渡の対抗要件を備えれば、それだけで物上保証人Bに対しても抵当権の譲受けを対抗できる。登記の移転は不要だ。
ただし、BがこのBが所有する土地を第三者Eに譲渡した場合には、Dはその登記を備えなければEに対抗できない。
✅ 例題
「CのAに対する1億円の債権をBの土地に抵当権を設定して担保していたところ、CがこれをDに譲渡し、AにのみBに対して債権譲渡の通知を口頭で行った場合、DはAには対抗できるが、物上保証人Bへの抵当権譲受けの対抗には登記の移転が必要か?」
答え→ここをクリック
不要(誤り)。 随伴性により、被担保債権の対抗要件さえ備えれば、登記の移転なしにBに対しても抵当権の譲受けを対抗できる。
性質④ 付従性(民法第369条等)
担保物権は、①被担保債権が成立しなければ自らも成立せず、②被担保債権が消滅すれば自らも消滅する。
「債権なければ担保なし」
AがBから1億円を借り、A所有の土地に抵当権を設定した。しかし、その1億円の消費貸借契約が心裡留保によって無効だった場合、抵当権だけが有効に残るか?
残らない。被担保債権が存在しない以上、それを担保する抵当権だけが単独で存在することはできない。これが付従性だ。各種担保物権に共通する性質だ。
✅ 例題
「抵当権設定後10年が経過して被担保債権が時効消滅しても、抵当権の消滅時効期間は20年だから、債務者は抵当権の消滅を主張できない」――正しいか?
答え→ここをクリック
誤り。 被担保債権が時効消滅すれば、付従性によって抵当権も自動的に消滅する。債務者もその消滅を主張できる。(被担保債権が残っている状態で抵当権だけの時効消滅を主張できるかという別問題では、債務者は主張できないが、本問はそのケースではない。)
10. 根抵当権(民法第398条の2等)
根抵当権とはなぜ必要か
小売店Aが問屋Bから毎日商品をツケで仕入れているとする。Bがこのツケを確実に回収したいなら、Aの不動産に抵当権を設定すればよい。しかし、毎日新たなツケが発生するたびに抵当権を設定し直すのは、手間もコストもかかりすぎる。
そこで生まれた仕組みが根抵当権だ。
根抵当権の基本構造
あらかじめ「1億円まで」というように上限額(極度額)を設定しておき、その範囲内で日々発生するツケを自動的に担保し続ける。極度額の範囲内であれば、個々の債権の発生・消滅を都度登記する必要がない。
毎日変動する被担保債権の額をある時点で固定することを元本の確定という。
普通の抵当権との違い
| 項目 | 普通の抵当権 | 根抵当権 |
|---|---|---|
| 利息の優先弁済 | 最後の2年分のみ | 極度額の範囲内で全額 |
| 被担保債権 | 特定の債権 | 一定範囲の不特定債権 |
| 随伴性 | あり | 元本確定前はなし |
変更の可否まとめ
| 変更の種類 | 利害関係者の承諾 | 元本確定後の変更 |
|---|---|---|
| ① 被担保債権の範囲の変更 | 不要 | ❌ 不可 |
| ② 債務者の変更 | 不要 | ❌ 不可 |
| ③ 元本確定期日の変更 | 不要 | ❌ 不可 |
| ④ 極度額の変更 | 必要 | ✅ 可能 |
重要: 元本確定前であれば①〜④のすべてが可能だ。
✅ 例題
「根抵当権者は、元本確定前に、後順位抵当権者の承諾を得ずに、根抵当権の被担保債権の範囲を変更できる」――正しいか?
答え→ここをクリック
正しい。 被担保債権の範囲の変更は、元本確定後には不可だが、確定前であれば後順位抵当権者の承諾なしに行うことができる。
第8章 総まとめ
| テーマ | 核心ポイント |
|---|---|
| 第三取得者の保護 | 弁済・消滅請求・代価弁済の3択 |
| 抵当権消滅請求 | 債務者・保証人は不可/Bの拒否は2カ月以内に競売申立 |
| 時効消滅の主張 | 設定者・債務者は不可/第三取得者・後順位は可 |
| 物上代位性 | 差押えは支払い前に/留置権には不適用 |
| 不可分性 | 全額弁済まで目的物全体に効力が及ぶ |
| 随伴性 | 債権譲渡で抵当権も自動移転/登記不要 |
| 付従性 | 被担保債権消滅→抵当権も消滅 |
| 根抵当権 | 極度額の変更のみ利害関係者の承諾が必要 |
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