賃貸借と使用貸借の違いを押さえよう
まず大前提として、「賃貸借」とは対価(賃料)を支払って物を借りる契約のことだ。対象物は土地や建物などの不動産でも、自動車などの動産でも構わない。
一方、世の中には心の広い人もいて、無償で物を貸してくれるケースがある。これを「使用貸借」という。
| 種別 | 賃料 |
|---|---|
| 賃貸借 | 有償(賃料あり) |
| 使用貸借 | 無償(タダ) |
賃貸人の義務(民法第606条ほか)
賃貸人の義務と、それに付随する費用請求のルールを整理する。
修繕は賃貸人の仕事
賃貸借契約において、目的物を使用・収益するために必要な修繕を行う義務は賃貸人にある。これが大原則だ。
具体例で考えてみよう。AさんがBさんに月額10万円で住宅を賃貸したとする。ある日、屋根が傷んで雨漏りが発生した。このとき、誰が修理すべきか?
答えはAさんだ。Aさんは、Bさんが支障なく住める状態を維持する義務を負っているからだ。したがってBさんはAさんに「修繕してください」と請求できる。
⚠️ 注意点:ただし、Bさん自身の行為(帰責事由)によって修繕が必要になった場合は、Aさんは修繕義務を負わない。
「必要費」の請求
Aさんが修繕してくれるのを待ちきれない場合、Bさんが自分で工務店を手配して修繕し、その費用をAさんに請求することができる。生活に不可欠な状態を維持するためにかかったこの費用を「必要費」という。
試験頻出:いつ・いくら請求できるか?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| いつ | 直ちに(すぐ) |
| いくら | 全額 |
ただし、Bさんが自ら修繕できるのは以下のいずれかの場合に限られる。
① BさんがAさんに修繕の必要性を通知した、またはAさんが自ら知っていたにもかかわらず、相当期間内に修繕しない場合
② 急迫の事情がある場合(緊急を要するケースなど)
なお、Aさん自身が修繕しようとする場合、Bさんはそれを拒否できない(修繕は賃貸人の義務であると同時に権利でもあるためだ)。
「有益費」の請求
では次に、Bさんが「壁紙が古くなったから」と自費で10万円かけて張り替えた場合はどうだろうか。
これは「住める状態の維持」ではなく「より快適にする」ための支出であり、「有益費」に分類される。必要費とはルールが異なる。
試験頻出:いつ・いくら請求できるか?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| いつ | 賃貸借終了時 |
| いくら | Aさんが以下のどちらかを選択する |
Aさんが選べる金額は次のとおり。
① Bさんが実際に支出した費用の全額(例:10万円)
② 賃貸借終了時点における現存増加額(例:当時の価値が3万円に下がっていれば3万円)
⚠️ ひっかけ注意:どちらの金額を返すかを選ぶのはAさん(賃貸人)であり、Bさんではない。
例題①
甲建物の賃貸借において、賃貸人Aが修繕の必要性を知っていたにもかかわらず相当の期間内に修繕を行わなかった場合、賃借人Bは自ら修繕を行うことができる。
答え→ここをクリック
解答:○(正しい)
民法の規定通り、賃貸人が修繕義務を果たさない場合、賃借人は自ら修繕することができる。
賃借人の義務(民法第611条ほか)
賃料支払いのルール
賃借人の主たる義務は賃料の支払いだ。試験で押さえるべきポイントは2点。
① 宅地建物の賃料は月末払いが原則(後払い)
② 賃借物の一部が滅失等によって使用収益できなくなった場合
→ 賃借人に帰責事由がないときは、使用収益できなくなった割合に応じて賃料が当然に減額される
例題②
Aの建物をBが月額10万円で賃借中、落雷により建物が半焼し、その一部が使用できなくなった。このとき賃料は減額されるか。
答え→ここをクリック
解答:○(正しい)
落雷はBの帰責事由ではないため、使用収益できなくなった割合に応じて賃料は当然に減額される。
賃借人の原状回復義務(民法第621条ほか)
賃貸借が終了したとき、賃借人は損傷した部分を元の状態に戻す義務(原状回復義務)を負う。
ただし、通常の使用による消耗(いわゆる経年劣化)については、原状回復義務を負わない。
壁のちょっとした日焼けや床の軽い傷など、普通に生活していれば避けられない傷みについては、賃借人が負担する必要はない。
不動産賃借権の対抗力(民法第605条ほか)
借地権の対抗力
たとえば、AさんがBさんに土地を貸し、Bさんがそこに建物を建てていたとする。AさんがこのままCさんにその土地を売却した場合、CさんはBさんに明け渡しを求めることができるか?
BさんがCさんに借地権を対抗できれば(対抗力があれば)、Bさんは土地を明け渡す必要はない。
借地権の対抗力が認められる要件は以下の3つだ。
① 借地権の「登記」
地上権・賃借権いずれも登記が可能であり、登記することで対抗力が生じる。
② 借地上の建物の「登記」
借地権の登記がなくても、借地上の建物が借地権者(B)自身の名義で登記されていれば対抗力を持つ。
⚠️ 同居の家族(たとえば長男)名義での登記は対抗力なし。必ず自己名義であること。
なお、この登記は権利登記でも表示登記でもどちらでも構わない。
③ 建物があったことの「掲示」
建物が火災などで滅失してしまった場合でも、土地の見やすい場所に立て札などで以下の事項を「掲示」することで、借地権の対抗力を維持できる。
掲示に記載すべき事項:
・滅失した建物の特定情報
・滅失した日
・建物を再建する旨
⚠️ 掲示による対抗力は永続しない。建物が滅失した日から2年間が限度。
建物賃借権の対抗力
AさんがBさんに建物を貸し、その後Cさんに建物を売却した場合、BさんはCさんに賃借権を主張できるか?
認められる要件は以下の2つだ。
① 建物賃借権の「登記」
建物賃借権も登記が可能。登記により対抗力が生じる。
② 建物の「引渡し」
登記がなくても、Bさんが建物の引渡しを受けていれば、それだけで対抗力が認められる。
つまり、実際に建物に住んでいれば、新所有者からの明け渡し要求を拒否できる。
例題③
借地権者Aは、甲土地上に、Aと同姓かつ同居の未成年の長男名義で保存登記をした建物を所有している。甲土地の所有者が交替した場合でも、Aは新所有者に借地権を対抗できるか。
答え→ここをクリック
解答:✕(誤り)
借地上の建物登記による対抗力は、あくまで自己名義(借地権者名義)の登記が必要。同居の長男名義では対抗力は認められない。
敷金のルール(民法第622条の2)
試験頻出の2大ポイントを先に確認しよう。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 敷金を未払賃料に充当するかを決めるのは | 賃貸人(賃借人ではない) |
| 敷金を返還しなければならない時期は | 明渡完了時(賃貸借終了時ではない) |
敷金の基本
敷金とは、賃借人が賃料を滞納した場合などに備えて、賃貸人があらかじめ預かる担保金だ。
たとえば、AさんがBさんから30万円の敷金を預かっていたとする。BさんがAさんに1カ月分(10万円)の賃料を滞納した場合、Aさんは敷金から充当することができる。ただし、充当するかどうかはAさんの判断に委ねられており、あくまでBさんに現金で払わせることもできる。
賃借人側からの充当請求はできない
Bさんの立場から「敷金から差し引いておいてください」と要求することはできない。充当の決定権はあくまでAさん(賃貸人)が持つ。Bさん側から担保を勝手に消費させることはできないという設計になっている。
返還時期は「明渡完了時」
賃貸借契約が終了しても、Bさんが建物を明け渡すまでの間はAさんは敷金を返す必要がない。建物の明渡しが先、敷金返還が後という順番だ(同時履行の関係には立たない)。
明渡し完了後も、明渡しまでの間に生じた未払賃料などを差し引いた残額のみを返還すれば足りる。
⚠️ Bさんが適法に賃借権を譲渡した場合は、AさんはBさんへ敷金を返還しなければならない。
応用:差押えと敷金充当
Bさんが10万円を滞納している状態で、BさんのCさん(債権者)が敷金返還請求権を差し押さえた場合、Aさんは敷金を充当できなくなるか?
答えはできる(充当可能)。
差押えとは、CさんがBさんに代わってBさんの権利を行使するということに過ぎない。AさんはBさんに対して主張できることは、そのままCさんに対しても主張できる。したがって、AさんはCさんの存在を気にせず、未払賃料への充当が可能だ。

賃借権の譲渡・転貸には承諾が必要(民法第612条ほか)
基本ルールを押さえましょう
賃借人が以下のことをする場合、必ず賃貸人の「承諾」が必要です。
① 賃借物を転貸(いわゆる又貸し)する
② 賃借権そのものを第三者に譲渡する
また、賃貸人の承諾を得て適法に転貸が行われた場合、賃貸人は転借人に対しても直接賃料を請求できる。
なぜ承諾が必要なのか?
具体的な場面で考えてみましょう。
AさんがBさんに自宅を貸しているとする。BさんはAさんの信頼があってこそ入居できている。ところがBさんが転勤になり、「空き家にするのはもったいないから」とCさんに無断で又貸ししたとしたら、Aさんはどう感じるだろうか。まったく素性を知らない人物に自分の大切な物件を使われてしまう。
そこで民法は、転貸・譲渡には賃貸人の承諾を要件として定めた。
無断転貸・無断譲渡があった場合の解除
承諾なしに転貸や賃借権の譲渡が行われた場合、賃貸人は契約を解除できる可能性がある。ただし、ここには重要な条件がある。
解除できるのは、BさんとAさん間の「信頼関係が破壊された」と評価できる場合に限られる(いわゆる「背信的行為」の要件)。
⚠️ 試験頻出の落とし穴:無断転貸があっても「背信的行為と認めるに足りない特段の事情」がある場合(=信頼関係が実質的に破壊されていない場合)は、解除できない。
「転貸」に当たらないケースに注意
BさんがAさんから土地を賃借し、その土地の上に自分名義の建物を建て、その建物をCさんに賃貸した場合——これはAさんの承諾が必要か?
答えは不要(✕)。
BさんはAさんから借りている「土地」をCさんに又貸ししているのではなく、自分の所有物である「建物」をCさんに貸しているに過ぎない。賃借物(土地)の転貸には当たらないため、Aさんの承諾は不要だ。
適法な転貸が行われた場合の賃料請求関係
Aさんの承諾のもと、AB間の賃貸借・BC間の転貸借が有効に成立した場合、賃料の請求関係はどうなるか。
| 請求関係 | 金額 |
|---|---|
| AさんがBさんに請求できる | 月額8万円 |
| BさんがCさんに請求できる | 月額10万円 |
| AさんがCさんに直接請求できる | 月額8万円(AB間の賃料が上限) |
ただし、AさんがBさんとCさん両方から8万円ずつ合計16万円受け取れるわけではない。どちらか一方から8万円を受け取れば足りる。
CさんもBさんとAさんに二重払いするわけではない。CさんがAさんに8万円を支払えば、Bさんへの支払いは残り2万円のみで済む。
例題①
建物の賃貸借契約が期間満了で終了した。賃借人から敷金返還を求められた賃貸人は、建物の返還を受けるまでその支払いを拒否できるか。
答え→ここをクリック
解答:○(正しい)
賃借物の返還が先、敷金の返還が後という順番は変わらない。明渡しが完了するまで、賃貸人は敷金の返還を拒むことができる。
賃借権の譲渡・建物の譲渡と敷金の行方
ケース1:賃借人が交替する場合(賃借権の譲渡)
BさんがAさんに敷金30万円を預けて、月額10万円で建物を賃借している。
BさんがCさんに賃借権を譲渡する場合
| 論点 | 答え |
|---|---|
| Aさんの承諾は必要か | 必要 |
| 敷金返還請求権はCさんに移転するか | ✕(移転しない) |
敷金はもともとBさんが拠出したお金だ。賃借権がCさんに移転しても、敷金の返還請求権はBさんが行使する。Cさんに渡ってしまってはBさんが不利益を被るからだ。
ケース2:賃貸人が交替する場合(建物の譲渡)
同じく、BさんがAさんに敷金30万円を預けて月額10万円で賃借している。
AさんがDさんに建物を譲渡する場合
| 論点 | 答え |
|---|---|
| Bさんの承諾は必要か | 不要 |
| DさんはBさんに賃貸人の地位を主張できるか | Dさんへの所有権移転登記が必要 |
| 敷金返還請求権はどうなるか | Dさんに引き継がれる(Bさんが行使) |
Aさんから建物を譲り受けたDさんは、自動的に賃貸人の地位を引き継ぐ。Bさんには明け渡しの必要はなく、誰が賃貸人になっても実害がないため、Bさんの承諾は不要とされている。
ただし、DさんがBさんに「新しい賃貸人は私だ」と主張するには、Aさんからの所有権移転登記が必要だ。
また、敷金はAさんからDさんへ自動的に引き継がれる。賃料を受け取る立場が移転する以上、その担保である敷金も一緒に付いてくるのが自然だ(随伴性)。
2ケースの比較まとめ
| 場面 | 相手方の承諾 | 敷金関係の移転 |
|---|---|---|
| 賃借人の交替(賃借権の譲渡) | 必要 | ✕(移転しない) |
| 賃貸人の交替(建物の譲渡) | 不要 | ○(移転する) |
賃貸借の終了事由(民法第617条ほか)
賃貸借が終了するのは、大きく分けて以下の4つの場合だ。
① 期間の満了(上限50年)
賃貸借期間は原則として50年が上限。これを超える期間を契約で定めても、自動的に50年に短縮される。
なお、借地借家法には特別のルールがあり、後述する。
② 解約の申入れ(期間を定めなかった場合)
期間を定めずに賃貸借を締結した場合、当事者はいつでも解約を申し入れることができる。
解約申入れから終了までの期間は以下のとおり。
| 対象 | 終了までの期間 |
|---|---|
| 土地の賃貸借 | 1年後 |
| 建物の賃貸借 | 3カ月後 |
③ 解除
債務不履行(賃料の不払い・無断転貸など)による解除のほか、当事者双方の合意による合意解除によっても終了する。
④ 賃借物の全部滅失
たとえば、借りていた建物が落雷で全焼した場合——賃貸借の対象物がこの世から消えてしまえば、契約を継続することは物理的に不可能だ。
賃借物の全部が滅失等により使用収益できなくなった場合、賃貸借は自動的に終了する。 解除などの意思表示は不要。
例題②
第三者による放火によって建物が全部焼失し、使用収益が不可能になった場合、建物の賃貸借は終了するか。
答え→ここをクリック
解答:○(正しい)
賃借物の全部が使用収益できなくなった場合、賃貸借は当然に終了する。
損害賠償請求の期間制限(民法第622条)
契約に違反した使用による損害の賠償を請求する場合、賃貸人は賃借物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければならない。
💡 使用貸借(無償の貸し借り)においても同じルールが適用される。
以上が賃借権の譲渡・転貸、および賃貸借の終了に関する整理となります。
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