「とっさに出る言葉」ほど、その人の本質が出る
電話が鳴って、反射的に受話器を取った瞬間。 接客中に少し焦っていたとき。
こういう「考える間もなく言葉が口から出る場面」で、人は素の言葉遣いを晒します。逆に言えば、こうした瞬間にどんな言葉が出るかで、その人・その会社の教育レベルが相手に伝わってしまう、ということでもあります。
今回取り上げるのは、まさにそうした場面で頻出する誤用、
「お名前様、頂戴してもよろしいでしょうか」
です。
以前の記事では「頂戴できますか」という部分――つまり「名前は頂戴(もらう)ものではない」という点に焦点を当てました。今回はもう一つの問題、「お名前」に「様」を重ねてしまうという部分について、掘り下げていきます。
なぜ「お名前様」がNGなのか
答えはシンプルです。「お名前」という言葉自体に、すでに「お」という尊敬の接頭語がついており、この時点で十分に丁寧な表現として成立しています。そこにさらに「様」を付け加えることは、敬語を必要以上に重ねる「二重敬語」「過剰敬語」にあたります。
これは文法的な誤りであると同時に、実務上はもっと厄介な問題を引き起こします。過剰な敬語は、聞き手に無意識のうちに「違和感」「不自然さ」、時には「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」という印象すら与えてしまうのです。
心理学的に見ても、人は言葉のリズムや自然さから、無意識に相手の「本気度」や「習熟度」を判断しています。マニュアル通りに言葉を継ぎ足しただけの敬語は、聞き手の耳に「型通りの対応」として引っかかり、かえって信頼感を損ねることがあります。特に不動産や金融など、大きな金額と長期の信頼関係が前提となる業界では、この「言葉の違和感」が致命的なマイナスになりかねません。
正しい言い方
結論として、名前を尋ねる際の正しい表現は次の通りです。
- 「お名前をお聞かせいただけますでしょうか」
- 「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」
- 「差し支えなければ、お名前をお教えいただけますか」
いずれも「お名前」だけで敬意は表現できています。ここに「様」を足す必要はありません。
「間違いに気づかれている」という前提を持つ
多くの人が見落としがちなのは、電話やご来店の相手は、こちらが思っている以上に言葉の違和感に敏感だという点です。特に一定以上の社会経験がある方、あるいは接客業に携わったことのある方は、こうした過剰敬語に瞬時に気づきます。
「この会社、大丈夫かな」
――そう思われてしまったら、その後どれだけ良い提案をしても、最初の印象を覆すのは簡単ではありません。不動産取引のように「初回の電話対応」が成約率を左右する業種では、この最初の数十秒がとても重要な意味を持ちます。
現場でよくある「頑張りすぎ敬語」のパターン
「お名前様」以外にも、良かれと思って言葉を足しすぎた結果、不自然になっているケースは意外と多く見られます。代表的なものを挙げておきます。
- 「~のほうになります」(不要な「ほう」)
- 「~させていただいております」の多用(一文に何度も重ねると冗長)
- 「ご覧になられる」(「ご覧になる」+「れる」の二重敬語)
- 「おっしゃられる」(「おっしゃる」+「れる」の二重敬語)
共通しているのは、いずれも「丁寧にしよう」という意識が強すぎるあまり、言葉を継ぎ足してしまっているという点です。敬語は「足せば足すほど丁寧になる」ものではなく、適切な形を一度だけ使うことが、最も丁寧で、最も自然に伝わります。
現場教育への落とし込み方
弊社のようにお客様との初回接点を大切にする業種では、こうした言葉遣いのチェックをマニュアルの一項目として終わらせず、実際の録音や接客ロールプレイで確認することをお勧めします。知識として「知っている」ことと、とっさの場面で「正しく口から出る」ことの間には、想像以上に大きな差があるからです。
言葉は習慣です。日々の会話の中で正しい形を意識的に使い続けることでしか、とっさの場面での「素」は変わりません。
今回も、日常のちょっとした言葉遣いから、相手への敬意の伝え方を見直すきっかけになれば幸いです。
では、また次回!「間違いやすい言葉を正しい言葉に」


