営業をしていると、必ず直面するのが「断る場面」です。
商談の提案を受けたとき、あるいは協力依頼を受けたときに、すべてを受け入れるわけにはいきません。むしろ、うまく断ることができるかどうかで、あなたの営業人生の信頼残高が大きく変わってきます。
人は「断られる」ことに敏感です。曖昧な返答で引き延ばされたり、「検討します」と言われながら実際には何も進展がなかったりすると、相手は「期待を持たせられて裏切られた」と感じます。結果的に、断る勇気がなかったばかりに相手から嫌われてしまうのです。
つまり、営業マンにとっての本当の課題は「どうやって断るか」。仕事ができる人はこのスキルを身につけているので、断りながらも信頼を得られるようになります。
曖昧な返事が一番のリスク
「少し考えさせてください」
「検討してみます」
一見、柔らかく聞こえる言葉ですが、実際には相手に期待だけを残してしまいます。
しかも、自分の心の中では「どうせ断る」と決めているのに、曖昧にしてしまう。この状態が長く続けば続くほど、話はこじれ、信頼関係は傷ついていきます。
営業の現場はスピード勝負です。返事を先延ばしにしている間に、別のチャンスを逃すこともありますし、「決断力がない人」とレッテルを貼られてしまう可能性もあります。相手から「話を持って行っても無駄だ」と思われてしまったら、次のビジネスチャンスすら回ってこなくなります。
だからこそ、大事なのは「はっきりと、でも関係を壊さない断り方」を身につけることです。
断り方の新ルール:「サンドイッチ法」
ここで紹介したいのが「サンドイッチ法」という考え方です。
これは、断りの言葉を前後から包み込み、相手との関係を守る方法です。ポイントは3つ。
- 感謝を伝える
- 明確にNOを伝える
- 未来につなげる言葉で締める
この3つを順番に並べると、相手は断られているのに嫌な気持ちを残しません。むしろ「誠実な人だ」と感じてもらえるのです。
ステップ① 感謝を伝える
まずは「ありがとう」から始めましょう。
例えば、相手から新しいビジネスの提案を受けたとします。最初の返事は、内容に関わらずこうです。
「とても興味深いお話をいただきありがとうございます。新しい視点に触れることができて感謝しています。」
この一言があるかないかで、相手の受け取り方は大きく変わります。人は「自分の時間やアイデアを尊重してくれた」と感じれば、それだけで心が和らぎます。
ステップ② 明確にNOを伝える
次に必要なのは、はっきりと断ること。
ここで一番やってはいけないのが「検討しておきます」といった曖昧な言葉です。断ると決めているなら、遠回しにせず、理由を添えてはっきりと伝えることが相手への礼儀です。
例:
「ただ、現在当社は既存のプロジェクトに時間と資金を集中しており、新しい取り組みに参加する余裕がございません。大変申し訳ありませんが、今回は辞退させていただきます。」
ポイントは「ノー」をストレートに言うこと。ただし、相手の人格や提案の価値を否定する言い方は避けることです。
ステップ③ 未来につなげる言葉で締める
最後に「またご縁があれば」と未来につなげる言葉を添えましょう。
例:
「今回はご一緒できませんが、今後また別の機会がありましたら、ぜひお声がけいただければ幸いです。長いお付き合いを大切にしたいと思っています。」
こうすることで、断ったにもかかわらず「また話してみたい」と思ってもらえる関係性を築けます。
なぜ「サンドイッチ法」が効果的なのか?
人は「最後の印象」で全体を判断する傾向があります。心理学では「ピーク・エンドの法則」と呼ばれています。断りの言葉を「感謝」から始めて「未来への期待」で終えると、相手の心に残る印象はポジティブなものになるのです。
つまり、真ん中ではっきりとNOを伝えても、その前後に温かい言葉を挟むことで、全体が柔らかく伝わる。だから「サンドイッチ法」なのです。
実際の営業現場での活用例
たとえば、あなたが新人営業マンで、取引先から「別の商品も一緒に扱ってほしい」と依頼を受けたとしましょう。しかし、自社の方針やリソース的に対応できない場合、こう答えます。
「ご提案いただきありがとうございます。新しい商品についてのお話、とても興味深く拝見しました。
ただ、現状では既存の取り扱い商品に注力しており、他のラインを増やす余裕がない状況です。誠に申し訳ございませんが、今回は見送らせていただきます。
とはいえ、今後市場環境や弊社の体制が変わった際には、ぜひ改めてお声がけいただければと思います。」
このように答えれば、相手も「今回は仕方ないな」と納得しつつ、「また話してみよう」と思ってくれるでしょう。
断ることで信頼が増す paradox(逆説)
営業マンの多くは「断ったら嫌われる」と思いがちです。しかし、実際にはその逆です。
曖昧な態度を取る人のほうが信用を失い、はっきりと断る人のほうが「信頼できる人だ」と評価されます。
なぜなら、相手は「自分の時間を無駄にしない誠実な人」と感じるからです。さらに「断り方」がスマートであれば、むしろ自分の人間力をアピールできるチャンスになるのです。
まとめ:断る勇気が、次のチャンスを生む
営業における交渉で一番難しいのは、実は「断ること」です。
しかし、「サンドイッチ法(感謝→明確なNO→未来へのつながり)」を使えば、相手を傷つけることなく断り、なおかつ信頼を得ることができます。
ビジネスの世界では、断ることもまた「交渉の技術」です。
ぜひあなたも、今日から「断り方」を磨き、営業マンとしての信頼残高を増やしていってください。