「気になる土地が見つかったけれど、擁壁(ようへい)工事にどれくらいお金がかかるのだろう?」
「近年、各地で土砂災害のニュースを聞くけれど、この土地は将来も安全なのだろうか?」
一生に一度とも言える不動産の購入において、立地や間取りと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「土地そのものの安全性」です。
2023年5月に施行された「宅地造成及び特定盛土等規制法(通称:盛土規制法)」は、従来の規制を大幅に塗り替える画期的な法律であり、2025年(令和7年)5月には経過措置期間が終了し、全国ほぼすべての土地が新たな規制の網の目の中に組み込まれました。
弊社の拠点である千葉県においても、2025年5月26日より千葉市・船橋市・柏市を除く全域が「宅地造成等工事規制区域」に指定され、完全な新運用フェーズに入っています。
この法律を知らずに土地を購入してしまうと、「家を建てる前の擁壁・補強工事で予想外の追加費用が数百万円発生した」「将来売却しようと思ったら価値が暴落していた」というトラブルに巻き込まれかねません。
本記事では、株式会社LiF代表として不動産実務・建築・法律・相続に深く関わってきた筆者が、最新の市場動向を踏まえ、「盛土規制法が不動産購入に与える影響」と「絶対に押さえるべきチェックポイント」を分かりやすく解説します。
1. なぜ今「盛土規制法」なのか?制度の背景と従来との違い
静岡県熱海市の土石流災害が変えた法体系
2021年7月、静岡県熱海市で発生した大規模な土石流災害は、記憶に新しいことと存じます。原因は、山の斜面に不適切に積まれた「盛土(もりど)」が崩落したことにありました。
この惨事を二度と繰り返さないため、従来の「宅地造成等規制法」が根本から抜本改定され、成立したのが「盛土規制法」です。
「規制の空白地帯」が完全に消滅した
従来の法律では、規制対象となる「宅地造成工事規制区域」は全国の土地のわずか10%程度にとどまっており、農地や森林、郊外のエリアには規制が及ばない“空白地帯”が多く存在していました。
しかし、新法では「危険な盛土等を全国一律の基準で規制する」という考え方にシフト。都道府県知事等が以下の2つの区域を指定し、日本のほぼすべての土地が網羅されることになりました。
| 区域の種類 | 該当するエリアのイメージ | 規制の強さ |
| 宅地造成等工事規制区域 | 市街地、集落、および将来宅地化されるリスクの高いエリア | 非常に厳しい(許可制) |
| 特定盛土等規制区域 | 市街地から離れているが、盛土崩落時に下流へ害を及ぼすエリア | 厳しい(許可制・届出制) |
千葉県をはじめ、全国の都道府県で指定が完了し、2026年現在の不動産市場においては「全国ほぼ例外なく新ルールの対象」となっています。
2. 不動産購入者が知っておくべき「4つの重要リスク」
盛土規制法のもとで不動産(土地・戸建て)を購入する際、買主様が具体的にどのような影響を受けるのか、実務の現場から4つのポイントに整理して解説します。
リスク①:工事費用(解体・擁壁・地盤改修)の不確定性と高騰
盛土規制法の指定区域内で一定規模以上の盛土・切土(きりど)を行う場合、知事等の「許可」が必要となります。
法律で定められた厳格な擁壁構造基準や排水設備の設置が義務付けられるため、「工事にかかる費用」と「工期」が増大します。
特に近年は、世界的な資材高騰(ウッドショック・アイアンショック等)や人件費の上昇が続いています。これに盛土規制法の安全基準クリアに伴う土木工事費が乗っかることで、当初の予算オーバーを引き起こすケースが多発しています。
リスク②:住宅ローンの融資実行・着工スケジュールの遅延
盛土規制法の許可申請は、確認申請や開発許可と並行して行う必要があり、行政との協議や審査に数ヶ月単位の期間を要することがあります。
住宅ローンを利用して土地購入+注文住宅の建築を行う場合、「許可が下りないために着工できず、融資の実行タイミングがズレて金利負担や仮住まい費用が増加する」というスケジュールリスクが生じます。
リスク③:将来の「相続」や「売却」における資産価値の変動
不動産は「所有しているだけで維持費(固定資産税等)がかかる資産」ですが、盛土規制法の影響により、将来の流動性(売りやすさ)が変わります。
安全性が担保され、適切な許認可を得て造成された土地は「災害に強い安心な資産」として評価が高まる一方、過去の不適格な盛土(いわゆる「擁壁の安全性が証明できない土地」)は、将来売却しようとした際に買主側から大幅な値引きを要求されたり、買い手がつきにくくなったりする危険があります。
これは将来、お子様へ土地を相続する際にも「負の遺産(負動産)」化させるか、「価値ある資産」として遺せるかの境界線となります。
リスク④:無許可造成物件における「罰則」と「所有者の是正責務」
盛土規制法において最も注意すべきは、「不適切な盛土が行われた土地の所有者(買主)に対しても、是正命令が出される可能性がある」という点です。
過去に行われた不法・危険な盛土であっても、災害防止の観点から土地所有者に対して安全対策工事(擁壁の改修等)が命じられることがあります。違反した場合の罰則も大幅に強化されており(法人に対して最大3億円の罰金など)、知らなかったでは済まされない自己責任が問われます。
3. プロの不動産会社が実践する「物件調査の鉄則」
失敗しない土地選びをするためには、依頼する不動産会社が「盛土規制法に対してどのような調査を行っているか」を見極めることが不可欠です。弊社で行っている実務調査の裏側をお伝えします。
鉄則1:Web上のマップだけで判断せず、地番照合と窓口確認を行う
自治体が提供している「重ねるハザードマップ」や「盛土規制区域マップ」は非常に便利ですが、境界線上の土地や複数筆にまたがる土地の場合、Web地図の精度だけでは見誤る危険があります。
弊社では、公図・登記事項証明書をもとに、役所の建築指導課や都市計画課の窓口へ足を運び、図面を提示したうえで直接判定を取得します。
鉄則2:宅建業法第35条「重要事項説明」における見落としの防止
不動産売買の契約前には、宅地建物取引士から「重要事項説明」を受けます。盛土規制法に関する内容は、以下の通り法令上の制限として明確に記載・説明することが義務付けられています。
- 対象地がどの規制区域に該当するか(第10条の規制区域か、第26条の特定区域か)
- 過去に許可取得済みの造成地か、これから許可が必要な行為があるか
- 「造成宅地防災区域(第45条)」に該当していないか
特に重要事項説明書の「法令上の制限」欄は記載項目が多岐にわたるため、盛土規制法に関する記述が埋もれてしまわないよう、弊社では買主様にリスクとメリットを個別に分かりやすく図解してご説明しています。
鉄則3:5年ごとの「基礎調査・見直し」への追従
盛土規制法第4条では、概ね5年ごとに都道府県等による「基礎調査」が行われ、区域指定が見直されることが定められています。
今は「特定盛土等規制区域」指定の郊外地であっても、周辺の開発状況によっては将来より制限の厳しい「宅地造成等工事規制区域」へ移行する可能性もあります。将来の都市計画やインフラ整備動向まで視野に入れた提案を行っています。
4. 買主様・投資家様がチェックすべき「購入前のセルフリスト」
土地の購入や古い擁壁付き中古住宅の購入をご検討中の方は、契約前に以下のセルフチェックリストをご活用ください。
【盛土規制法・土地の安全性チェックリスト】
□ 1. 検討している土地は「宅地造成等工事規制区域」内にあるか?
□ 2. 敷地内に高低差(2mを超える擁壁や崖など)が存在するか?
□ 3. 過去に大規模な盛土が行われた履歴(大規模盛土造成地マップ等)はあるか?
□ 4. 既存の擁壁に「水抜き穴」が適切に設置され、水が詰まっていないか?
□ 5. 擁壁に「目立つクラック(ひび割れ)」や「はらみ(膨らみ)」はないか?
□ 6. 過去の擁壁工事に関する「検査済証」や「建築確認通知書」の書類が残っているか?
□ 7. 建築予定のハウスメーカー・工務店は、盛土規制法に伴う造成費用を見積もりに含めているか?
上記のチェックリストで1つでも不安要素がある場合は、売買契約を締結する前に、必ず不動産・建築のプロによる詳細な調査を行ってください。
5. 心理学・哲学視点で考える「家づくり・土地選びの本来の目的」
少し視点を変えて、心理学と哲学の観点から「土地の安全性」について考えてみましょう。
アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求5段階説」によると、人間の欲求の根本には「生理的欲求」があり、そのすぐ上に位置するのが「安全の欲求(身の危険を感じず、安心して暮らしたい欲求)」です。
どれほどデザインが素晴らしいデザイナーズ住宅を建てたとしても、足元の「土地」の安全性が脅かされていては、住まい手は潜在的な恐怖やストレス(安全欲求の不充足)を感じ続け、本当の意味での心休まる生活は手に入りません。
また、古代ギリシャの哲学者アリストテレスは「人間のあらゆる行為は『幸福(エウダイモニア)』を目指している」と説きました。
不動産を購入する本来の目的は、単に「家を持つこと」ではなく、「その場所で家族と共に安全で幸せな時間を重ねること」のはずです。
盛土規制法というルールは、一見すると「行政の手続きが増えて面倒だ」「建築費用が上がって困る」といった障害のように思えるかもしれません。しかし本質的には、「あなたの家族の命と財産、そして将来の幸福を土台から守るためのインフラ」に他なりません。
6. まとめ:安全な不動産取引こそがプロフェッショナルの責任です
盛土規制法の全国的な本格運用により、不動産取引における「土地の安全性」への配慮は、かつてないほど高い次元で求められるようになっています。
- 規制区域の正確な照合と調査
- 将来発生し得る工事費用やスケジュールリスクの透明化
- 重要事項説明書における適切なリスクの示唆
- 買主様・売主様双方の将来を守るアドバイス
これらを徹底することこそが、不動産に携わるプロフェッショナルとしての信頼の証であり、弊社の責務であると考えております。
株式会社LiFでは、不動産売買仲介はもちろんのこと、建築・土木リスクの調査、将来の相続を見据えた資産価値評価まで、お客様一人ひとりの状況に合わせた総合的なコンサルティングを行っております。
「検討している土地の擁壁が心配」「盛土規制法の影響でマイホーム計画がどうなるか知りたい」といった疑問をお持ちの方は、ぜひお気軽に弊社までご相談ください。
長年の知識と確かな経験をもとに、皆様の「安心安全な住まいづくり・資産形成」を全力でサポートいたします。
(※本記事の情報は2026年時点の最新法令・自治体運用に基づき作成されています。個別の物件調査や法令適用については、管轄行政窓口および弊社専門スタッフまで直接お問い合わせください。)

