その言葉、実は減点対象かもしれません
先輩「昨日、次に当社が行う新規プロジェクトの資料をメール見てもらえたかな?」
社員「はい、拝見させて頂きました。」
一見、丁寧で申し分のない受け答えに聞こえます。しかし、これは日本語として厳密には誤りです。今日はこの「二重敬語」という、真面目な人ほど陥りやすい落とし穴について、改めて整理してみたいと思います。
なぜ「拝見させて頂きました」は間違いなのか
まず「拝見」という言葉自体を分解してみましょう。「拝」という漢字には、もともと「見る」という行為をへりくだって表す謙譲の意味が含まれています。つまり「拝見」の時点ですでに敬語(謙譲語)として完成しているのです。
そこにさらに「させて頂きました」という、これもまた別の謙譲表現を重ねてしまうと、同じ方向の敬意を二重に表現することになります。これが「二重敬語」と呼ばれる誤用のパターンです。
正しい言い方は、
「はい、拝見いたしました。」
もしくはもっとシンプルに
「はい、拝見しました。」
このどちらかで十分に丁寧さは伝わります。「拝見」という言葉そのものにすでに敬意が込められているため、それ以上重ねる必要がないのです。
二重敬語は「他にもたくさんある」
この誤用は「拝見させて頂きました」に限った話ではありません。日常の中でよく見かける二重敬語には、次のようなものがあります。
- 「おっしゃられる」→ 「おっしゃる」の「おっしゃ」自体が尊敬語なのに、「られる」という尊敬の助動詞を重ねている
- 「お伺いさせて頂きます」→ 「伺う」自体が謙譲語なのに「させて頂く」を重ねている
- 「ご覧になられる」→ 「ご覧になる」で尊敬語として完成しているのに「られる」を重ねている
共通しているのは、「丁寧にしたい」という気持ちが強いあまり、敬語を重ねてしまうという点です。悪気があるわけではなく、むしろ相手への配慮の表れとも言えます。しかしビジネスの現場、特に不動産業界のようにお客様の人生の大きな決断に関わる仕事では、言葉遣いの正確さそのものが信頼の土台になります。
生成AIの普及で、むしろ「正しい日本語」の価値が上がっている
ここ数年でChatGPTやClaudeといった生成AIが文章作成の現場に急速に浸透しました。メールの文面や提案書のたたき台をAIに下書きしてもらう、という働き方はもはや珍しくありません。
ただし、面白いことに、生成AIが書く文章は文法的には正確でも、しばしば「丁寧すぎる」「回りくどい」表現になりがちです。AIが生成した文章をそのままコピー&ペーストして送ってしまうと、今回のような二重敬語や、不自然な敬語の重複がそのまま残ってしまうケースが実際に増えています。
つまり、これからの時代に求められるのは「文章を書く力」よりも「AIが書いた文章の敬語や言い回しを、人間が正しく整える力」かもしれません。皮肉なことに、便利な道具が増えるほど、基礎的な日本語力の差がそのまま仕事の質の差として表面化してくるのです。
不動産業界における「言葉の正確さ」の重み
弊社のようにお客様の資産や相続に関わる不動産の仕事では、契約書や重要事項説明書など、一字一句の正確さが求められる場面が非常に多くあります。日頃のちょっとした会話における言葉遣いの緩みは、実はそうした場面での言葉に対する感度そのものにも表れてしまうものです。
「拝見いたしました」と正しく言えるかどうかは、些細なことのように見えて、実は「細部への注意力」という、専門職としての信頼を測る一つのバロメーターでもあります。
まとめ
- 「拝見」の時点ですでに謙譲語として完成している
- そこに「させて頂く」を重ねると二重敬語になる
- 正しくは「拝見いたしました」、または「拝見しました」
- 生成AIの普及により、正しい敬語を見極める力の価値はむしろ高まっている
日々の何気ない一言にこそ、その人の丁寧さや誠実さがにじみ出るものです。今日ご紹介した内容が、皆様の日々のコミュニケーションの一助になれば幸いです。


