社会人として必ず直面するのが「クレーム対応」です。特に電話での対応は、お客様の表情が見えない分、言葉の選び方ひとつで相手の感情が大きく変わります。
ニュース記事にもあるように、クレーム対応は「相手の感情に寄り添う」ことが第一歩。しかしここで気をつけたいのが、「寄り添っているつもりでも、実は相手を逆なでしてしまう言葉」を使ってしまうケースです。
たとえば、次のようなやり取りを想像してみてください。
間違いやすい言葉①:「すみませんね」
「すみませんね」という表現は一見謝罪のように聞こえますが、どこか突き放した印象を与えます。日本語には「ね」という語尾に「あなたも分かるでしょ?」というニュアンスが含まれることがあります。相手が怒っている時にこの言葉を使うと、「他人事のようだ」と受け止められかねません。
正しい言葉:「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
ここで大事なのは、「主体は自分(自社)にある」と明示することです。責任を自覚している姿勢が伝わり、相手の怒りをやわらげます。
間違いやすい言葉②:「大丈夫です」
クレーム対応で「大丈夫です」という返答を使うのも危険です。相手は「自分は大丈夫じゃないから電話している」のです。そこで「大丈夫」と返すと、「私の感情を軽んじている」と感じさせてしまう恐れがあります。
正しい言葉:「すぐに確認いたします」「安心していただけるよう対応いたします」
相手が求めているのは「状況を理解してくれた」「解決に動いてくれている」という安心感です。単に「大丈夫」ではなく、具体的な行動を示す言葉が信頼につながります。
間違いやすい言葉③:「わかりました」
「わかりました」は便利な言葉ですが、ビジネスの場では注意が必要です。相手によっては「適当に聞き流された」と受け取られることがあります。
正しい言葉:「承知いたしました」「確認させていただきます」
特にクレーム対応では、形式ばった敬語のほうが「きちんと対応してくれている」という安心感を与えます。
心理学的にみる「言葉の効果」
心理学では「感情感染」という現象があります。相手が怒っていると、自分もつられて声を荒げてしまう。逆に、こちらが落ち着いた声で話すと、相手も次第に冷静さを取り戻す。電話対応はまさにこの典型例です。
また「ラベリング効果」という心理学用語も重要です。これは「相手の感情に名前をつけてあげる」ことで、相手の気持ちが整理されるというものです。
たとえば「大変ご不安だったのですね」「ご不便を感じられたのですね」と伝えると、相手は「自分の気持ちをわかってくれた」と感じ、怒りのボルテージが下がります。
言葉とは単なる情報伝達ではなく、感情の調律でもあるのです。
哲学からの視点
哲学的に言えば、クレーム対応は「対話の実践」でもあります。プラトンの対話篇でソクラテスが示したように、対話の目的は相手を打ち負かすことではなく、真実を共に探ることです。クレームも同じで、「勝ち負け」ではなく「より良い解決策」を見出す共同作業と捉えるべきです。
言葉の選び方を誤ると、「対話」が「対立」に変わってしまいます。正しい言葉を選ぶことは、相手と「共に」解決に向かう姿勢を表すことでもあるのです。
まとめ:クレーム対応で意識すべき「正しい言葉」
- 「すみません」ではなく「申し訳ございません」
- 「大丈夫です」ではなく「安心していただけるよう対応いたします」
- 「わかりました」ではなく「承知いたしました」
- 感情をラベリングして相手の気持ちを言葉にする
- 最後は「お電話いただきありがとうございました」で感謝を伝える
クレーム対応は「できれば避けたい仕事」と思われがちですが、実は自分や会社の成長を促す貴重な機会でもあります。誠実に対応し、正しい言葉を選ぶことができれば、不満を抱いていたお客様が「ありがとう」と言ってくださる瞬間が必ず訪れます。
言葉は刃物にもなれば、薬にもなります。間違いやすい言葉を正しい言葉に変えることで、トラブルは対話へ、対話は信頼へと変わっていくのです。