ビジネスメールは、単なる連絡手段ではありません。そこには、相手との信頼関係を築く要素や、あなた自身の印象を左右する要素が詰まっています。
メール一通で「この人はできるな」と思われることもあれば、逆に「この人、大丈夫かな?」と思われることもあるのです。
今回取り上げるテーマは 「メール返信で使う正しい言葉遣い」。
いただいたメールに返信する際は、同じ案件でのメールなら「Re:〜」のままでも構いません。
本文には、まずは「ご連絡ありがとうございます」と感謝の言葉を。
社外の人に贈るメールでは、自分の会社は「弊社」、相手は「御社」。また社内の人間は軽傷をつけず、「弊社の大橋が申しておりました」などへりくだった表現をすることで、先方への敬意を示します。
文末の「よろしくお願いいたします」の前に「大変恐縮ですが」など、クッションになる言葉を入れると、より丁寧な印象になります。来者をお願いする場合には、地図を添付するなど、相手の立場に立った気遣いもできるようになりましょう。
とても基本的でありながら、実践できていない人が多い内容です。では、このポイントをさらに深掘りしながら、間違いやすい言葉と正しい言葉を整理し、心理学的な意味や哲学的な考察も交えて解説していきます。
1. メールの第一声は「感謝」から始める
間違いやすい例
- 「了解しました。」
- 「承知しました。」
- 「確認しました。」
これらは間違いではありませんが、機械的で冷たい印象を与えることがあります。
正しいアプローチ
- 「ご連絡いただきありがとうございます。」
- 「お知らせいただき感謝いたします。」
心理学の観点から言えば、感謝の言葉は「返報性の原理」を働かせます。人は、感謝されると無意識に「この人に良い印象を持とう」という気持ちが芽生えるのです。
2. 社外メールでの「御社」「弊社」の違い
これは基本中の基本ですが、意外と混同されます。
- 御社 … 相手の会社を指す
- 弊社 … 自分の会社を指す
例えば、こんな間違いがよくあります。
- 「御社に確認したところ、〜」 → 正しくは「弊社に確認したところ、〜」
哲学的に考えると、言葉遣いは「相手との距離感」を表すもの。相手を立て、自分をへりくだるのは、日本文化特有の「和」の精神の表れでもあります。
3. 社内のメールで「弊社の大橋が申しておりました」はアリ?
社内メールで「弊社」は必要ありません。社内の人には「大橋さんが言っていました」でOKです。
ただし、社外の相手に「大橋が言っていました」と書くと、やや馴れ馴れしく見えます。そこで、
- 「弊社の大橋が申しておりました」
- 「担当の大橋より、そのように申し伝えております」
とすることで、謙譲のニュアンスを加えられます。
4. 「よろしくお願いします」だけでは弱い
NG例
- 「よろしくお願いいたします。」
ベター例
- 「大変恐れ入りますが、よろしくお願いいたします。」
- 「お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。」
このクッション言葉があるかどうかで、相手の受け取る印象は大きく変わります。心理的には、相手に「配慮されている」と感じさせることで、協力を得やすくなるのです。
5. 相手の立場に立つ「ひと手間」で差がつく
例えば、打ち合わせの案内メールで「◯時にこちらのオフィスまでお願いします。」とだけ書いていませんか?
これでは、相手が地図を検索する負担を負うことになります。
- 「地図を添付いたしましたので、ご参照ください。」
- 「アクセスしやすいように、Googleマップのリンクをお送りします。」
この気遣いは、ユニバーサルサービスの発想に近いです。「自分では当たり前でも、相手には当たり前じゃないこと」をフォローすること。それができる人は、間違いなく信頼されます。
6. 間違いやすい言葉と正しい言葉【まとめ表】
間違いやすい言葉 | 正しい言葉 |
---|---|
御社に確認しました | 弊社に確認しました |
了解しました | 承知いたしました/かしこまりました |
よろしくお願いします | 恐れ入りますが、よろしくお願いいたします |
7. 哲学的視点:なぜ言葉に「配慮」が必要なのか
メールのやり取りで、最も大切なのは「相手がどう感じるか」。
ハイデガーは「言葉は存在の家である」と言いました。私たちの言葉遣いは、相手にとっての「居心地の良い空間」をつくるものです。
言葉に無頓着な人は、相手を無視した空間をつくり、結果として信頼を失います。逆に、言葉に配慮する人は、相手を尊重し、調和を生み出す人として評価されるのです。
8. まとめ:メールは「気配り」の試金石
正しい言葉を使うことは、単なるマナーではなく、相手を思いやることの証明です。
- 感謝の言葉を添える
- 敬語を正しく使う
- クッション言葉で柔らかさを出す
- 相手が困らない工夫をする
この4つを意識するだけで、あなたのメールは「丁寧で信頼されるメール」になります。
そして最後に――。
ビジネスで成功する人は、メール一通にも哲学を持っています。
「言葉は相手の心に住む家」。その家を、温かく快適にするのが、あなたの言葉遣いです。
併せて読んでいただきたいシリーズ「間違いやすい言葉を正しい言葉に」