営業の現場に立つと、必ず「意見がぶつかる瞬間」が訪れます。
お客様はお客様なりの考えを持ち、あなたはあなたの提案を持っています。ときに「こちらの方が絶対に正しいのに!」と感じることもあるでしょう。しかし、そこで相手を「間違っている」と決めつけてしまうと、会話は途端に険悪になります。
ここで大切な心構えが一つあります。
それは 「相手も正しい」 と思って話を聞くことです。
なぜ「相手も正しい」と思うことが大切なのか?
私たちは誰も、自分が「間違っている」と思って発言してはいません。お客様もまた、自分の経験や知識、価値観に基づいて「自分は正しい」と信じながら話しています。
ところが、こちらが「それは違います」と真正面から否定してしまうと、相手は人格そのものを否定されたような気持ちになります。人は自分の考えを否定された瞬間、防御本能が働き、心を閉ざしてしまうのです。
逆に「なるほど、そういう考え方もありますね」と一言添えるだけで、相手は安心します。「自分の意見を尊重してもらえた」と感じると、その後の会話の流れは格段にスムーズになります。心理学でいう「承認欲求」が満たされるからです。
営業は商品を売るだけの仕事ではありません。人と人とが信頼関係を築くプロセスです。だからこそ、相手の考えを一度受け止める姿勢が大切になるのです。
「相手の立場に立つ」ということ
よく「相手の立場に立って考えなさい」と言われますが、言葉だけでは実感が湧きにくいものです。そこで具体的に意識すべきことは、
- 相手がその意見に至った背景は何か?
- どんな経験や不安から、その考えを持つに至ったのか?
という点です。
例えば、不動産営業で「まだ買うのは不安です」と言われたとします。表面的には「決断力がない」と感じるかもしれませんが、その裏には「過去に大きな買い物で失敗した経験」や「家族に反対される不安」などが隠れていることがあります。
相手の立場に立つとは、ただ「相手を否定しない」ことではなく、その背景にあるストーリーに思いを馳せることです。
営業の本当のサービスとは
営業マンが陥りがちな失敗の一つに、
「自分の商品やサービスの方が絶対にお得だから、それを理解させよう」
という姿勢があります。
しかし、お客様は「自分が間違っている」と思いたくありません。たとえ論理的にあなたの提案が正しくても、相手を「間違っている」と位置づけてしまえば、それは説得ではなく押し付けになります。
本当のサービスとは、
「お客様自身が、自分の判断は正しかった」と思えるように導くことです。
つまり、営業マンがすべきは勝ち負けの議論ではなく、お客様が安心して決断できる環境を整えることなのです。
「なるほど、そうですね」の力
「相手も正しい」と心から思えると、自然と「なるほど、そうですね」という言葉が出てきます。
この一言は、単なる相槌ではありません。お客様にとっては「自分の意見を理解してくれた」という強力なメッセージになります。
ここで大切なのは、嘘をつかないことです。表面だけで「そうですね」と合わせても、相手には見抜かれてしまいます。心から「相手なりに正しい」と思うことで、本物の共感が生まれるのです。
1. 相槌ではなく、共感の証
営業マンにとって「なるほど、そうですね」という一言は、単なる会話の潤滑油ではありません。この言葉には「私はあなたの話を理解しました」「あなたの考えを尊重しています」というメッセージが込められています。
人は誰しも、自分の意見を否定されると心を閉ざしてしまいます。逆に「理解してくれた」と感じると、安心感が生まれ、さらに心を開いて話したくなるのです。営業の現場でお客様の本音を引き出すには、この安心感が欠かせません。
2. 嘘の「そうですね」は逆効果
注意しなければならないのは、形だけの「そうですね」はすぐに見抜かれるということです。人は言葉よりも非言語的なサイン、つまり声のトーンや表情、仕草から本音を察知します。表面上だけの同意は、相手に「この人は本当は分かっていない」と感じさせ、逆効果になってしまいます。
そこで大切になるのが、「相手もその人なりに正しい」と心から思えるかどうかです。自分とは違う意見でも、相手の背景や立場を理解すれば「確かにそういう考え方もある」と自然に思えます。その瞬間に出る「なるほど、そうですね」は、作り物ではなく本物の共感の言葉になります。
3. 具体的な活用場面
例えば、お客様が「私は今はまだ購入するタイミングではないと思う」と言ったとします。焦っている営業マンはつい「いえ、今が一番の買い時です!」と反論してしまいますが、これは逆効果です。
そこで「なるほど、そうですね。大きな決断ですし、不安になるお気持ちもよく分かります」と受け止めた上で、「実は最近の金利動向を見ると…」と情報提供すればどうでしょうか。お客様は「この人は自分の気持ちを理解してくれる」と安心し、その後の話を聞く姿勢になってくれます。
「なるほど、そうですね」の力は、相手の防御心を解きほぐし、前向きな会話をつなぐ魔法のフレーズなのです。
正解は一つではない
交渉の場では、つい「どちらが正しいか」という一点勝負になりがちです。
しかし、ビジネスも人生も、正解は一つではありません。人の価値観や置かれた状況によって「正解」はいくつも存在します。
営業マンが意識すべきは、
「このお客様にとっての最適解は何か」
を一緒に探す姿勢です。
そうすれば、たとえ自分の提案が100%採用されなくても、お客様は「この人は信頼できる」と感じ、長期的な関係につながります。営業において、これは一度の契約以上に価値のある財産です。
1. 営業における「唯一の正解」という落とし穴
営業の交渉では、つい「自分の提案が絶対に正しい」「相手を説得しなければならない」と考えがちです。しかし、ビジネスも人生も、正解は一つではありません。人によって家族構成も収入状況も価値観も違う以上、「唯一の正解」を押し付けることはできないのです。
営業マンが「自分の正解だけを通そう」とすると、お客様との関係は衝突に変わります。結果として、相手は心を閉ざし、たとえ商品が良くても契約には至らないことが多いのです。
2. 「お客様にとっての最適解」を探す姿勢
では営業マンはどうすればよいのでしょうか。それは 「このお客様にとっての最適解は何か」 を一緒に探す姿勢を持つことです。
例えば、同じ住宅購入でも、子育て世代のお客様にとっての正解は「学校が近くて治安が良い環境」かもしれません。リタイア世代のお客様にとっての正解は「静かで自然が近い住環境」かもしれません。どちらも正解ですし、どちらも間違いではありません。
営業マンは、自分が用意した商品やサービスを一方的に押し付けるのではなく、相手の人生や価値観を尊重しながら、その人に合った答えを共に導き出すパートナーになるべきなのです。
3. 「一度の成約」より「信頼関係」という資産
こうした姿勢で営業を続けていると、お客様から「この人は信頼できる」と思っていただけるようになります。仮に今回は契約につながらなかったとしても、そのお客様は別の機会に必ず相談してくれるでしょう。さらに「信頼できる営業マンがいる」と知人を紹介してくれることもあります。
営業マンにとっての最大の財産は、一度の契約ではなく、お客様との信頼関係です。その信頼を積み重ねていけば、自然と成果は長期的に伸びていきます。
心がけ一つで交渉は変わる
「相手も正しい」と考えることは、単なるテクニックではなく、営業マンとしての基本姿勢です。
- 相手を否定せずに受け止める
- 相手の背景や思いを理解する
- お客様自身が正しいと感じられるようにサポートする
これらを実践するだけで、営業の現場は驚くほどスムーズに進みます。
営業は「売り込む仕事」ではなく「共に答えを見つける仕事」です。
このスタンスを持つことで、お客様との関係は深まり、結果として自然に成果がついてきます。
最後に
営業の交渉は、論破する場ではありません。
「自分も正しいけれど、相手もまた正しい」――この考え方を胸に置くことで、心がぐっと楽になります。
営業マンとして成果を出すためには、数字だけを追うのではなく、人として相手を尊重する姿勢が欠かせません。新人のうちからこの心得を身につけておけば、きっとあなたは長く愛される営業マンになれるでしょう。
「相手も正しい」と認めること。これが、営業交渉の第一歩です。