社会人として避けて通れないのが、取引先や上司、顧客への電話です。
メールやチャットが普及した今でも、要点を迅速に伝えるには電話が最も効果的な手段のひとつです。
ただし、電話には大きな特徴があります。
それは「相手の時間に、突然割り込む」ツールであるという点です。
だからこそ、電話をかける前の 「準備」と「言葉選び」 が、相手からの印象を大きく左右します。
今日は「間違いやすい言葉を正しい言葉に」という切り口で、電話対応を解説します。
1. 「いま、大丈夫ですか?」は正しい?
多くの方が使うフレーズに「今、大丈夫ですか?」があります。
もちろん丁寧な表現に聞こえますが、心理学的に見ると“相手に断りにくい問いかけ”になりやすいのです。
なぜなら、「大丈夫」と答える以外の選択肢を相手が取りにくいからです。
本当は会議中や移動中であっても、「大丈夫です」と返してしまいがち。結果、相手に負担を与えてしまいます。
正しい言葉は、
- 「今、少しお時間いただけますか?」
- 「5分ほどお話ししたいのですが、ご都合いかがでしょうか?」
このように 具体的な時間の目安 を示すこと。
相手は「5分なら大丈夫」「今は難しいから後にしてほしい」と選びやすくなります。
これは心理学でいう「選択肢の明示効果」。相手の自由度を尊重することで信頼関係が深まります。
2. 「お世話になっております」の落とし穴
電話の冒頭で多用される「お世話になっております」。
もちろん社会人の基本ですが、あまりに口癖のように繰り返すと“形式的すぎる印象”を与えてしまいます。
言葉に心を宿すには、状況に応じて言い換える工夫も必要です。
- 初めて話す相手には「初めてお電話いたします、◯◯会社の△△と申します」
- 久しぶりなら「ご無沙汰しております」
- 継続的にやり取りしているなら「いつも迅速なご対応ありがとうございます」
同じ「お世話になっております」でも、言葉を補足するだけで温度感が変わります。
3. 「失礼します」のタイミング
会話を終えるとき、よく「失礼します」とだけ言って電話を切る方がいます。
しかしこれは相手からすると、やや唐突で“ぶっきらぼう”に感じられることがあります。
正しい形は、
- 「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。失礼いたします」
このように「感謝」を挟んでから締めること。
心理学的に、人は「最後に聞いた言葉」の印象を強く残します。
これを 「ピーク・エンドの法則」 と呼びます。
電話の最後に「ありがとう」を添えることで、相手の記憶に良い印象を残せます。
4. 「かけ直します」の一言が信頼を作る
相手が忙しそうなときに「ではまたご連絡します」とだけ言って切る人も多いです。
しかし、それでは相手の立場からすると「いつかかかってくるのだろう…」と曖昧になります。
正しい言葉は、
- 「では、明日の13時に改めてご連絡いたします」
- 「会議後の16時頃にこちらからかけ直します」
このように 自分からかけ直す責任を明確にする ことで、信頼残高が増えます。
5. 哲学的に見た「電話」という行為
哲学的に考えると、電話とは「他者の時間をいただく行為」です。
私たちはしばしば“自分の都合”で相手に連絡をしますが、その瞬間、相手の時間は私たちの要件に従属させられます。
だからこそ、冒頭で「今よろしいですか?」と確認することは、相手の主体性を尊重する“哲学的マナー”とも言えるのです。
また、言葉は単なる情報伝達ではなく、関係性を築く道具でもあります。
正しい言葉を選ぶことは、相手の存在を尊重し、未来の信頼を積み重ねる行為そのものです。
6. 間違いやすい表現と正しい言葉まとめ
最後に整理してみましょう。
間違いやすい言葉 | 改善された言葉 |
---|---|
今、大丈夫ですか? | 今、5分ほどお時間いただけますか? |
お世話になっております(機械的に繰り返す) | 状況に応じて「ご無沙汰しております」「迅速な対応ありがとうございます」など具体化 |
失礼します(だけで終える) | 「お忙しいところありがとうございました。失礼いたします」 |
またご連絡します | 「明日の13時にこちらからお電話いたします」 |
7. 実務への応用
経営者として若手社員を見ていると、メールの文章は丁寧でも、電話になると「えっと…」「あの…」と迷ってしまう姿をよく見かけます。
しかし、これは「言葉の準備」と「シミュレーション」が不足しているだけです。
電話をかける前に以下をチェックしてみてください。
電話前の5つの準備
- 相手の社名・部署・役職・名前を確認する
- 話す要件をメモに整理する
- 挨拶と名乗りを明るくはっきり伝える
- 相手の都合を確認する言葉を添える
- 話の結びには必ず「感謝」を伝える
この5つを守るだけで、電話は“苦手な仕事”から“信頼を得るチャンス”に変わります。
結論
電話とは、単なる連絡手段ではなく「相手の時間をいただく責任のある行為」です。
その責任を果たすためには、正しい言葉を選び、相手の立場を尊重することが欠かせません。
「言葉ひとつで印象が変わる」――これを意識できる人は、どんな職場でも信頼され、成果を上げていきます。
間違いやすい言葉を、正しい言葉に整えていくこと。
それは単なるマナーではなく、ビジネスの本質である「相手との関係性を大切にする姿勢」そのものなのです。