盛土規制法の規制が始まり、令和7年5月26日から千葉県全域(千葉市・船橋市・柏市を除く)が宅地造成等工事規制区域に指定されましたので、これから不動産購入を検討される方に向けて説明したいと思います。
― 2025年5月以降は“全国ほぼ例外なし”の新ルール ―
● いま、なぜ盛土規制が重視されているのか?
2021年、静岡県熱海市で発生した大規模土石流災害は、無秩序な盛土が引き起こす危険性を世に知らしめました。この事案を契機に、「宅地造成等規制法」は抜本的に見直され、2023年5月、「宅地造成及び特定盛土等規制法(以下、盛土規制法)」が施行されました。
この法律は、“どこでも起こりうる”災害リスクを前提に、日本全国の土地を対象に、安全性を確保するための規制網を敷くという点で、従来とは次元の異なる制度です。
● 全国ほぼすべての土地が規制対象に
以前私が努めていたリスト株式会社のメインエリアは神奈川県、中でも横浜市での取引が多かったのですが、この宅地造成工事規制区域は比較的多かったです。
だた、全国的にこれまで「宅地造成工事規制区域」は、全国の約10%程度にとどまり、規制の“空白地帯”が多く存在していました。
しかし盛土規制法では、国の基本方針に基づき、都道府県が全国の土地を必ず何らかの規制区域に指定するようになりました。
人家や集落の周辺など、特にリスクが高いエリア → 「宅地造成等工事規制区域」(第10条)
それ以外の区域(原則) → 「特定盛土等規制区域」(第26条)
弊社がある千葉県では、千葉市・船橋市・柏市を除く全域が2025年5月26日から「宅地造成等工事規制区域」に指定されました。
● 【ポイント①】重要事項説明における記載は必須
この規制区域指定は、すべての不動産取引において重要事項説明の対象になります。
我々不動産会社は宅建業法第35条に基づき、以下の2点を必ず確認・記載・説明しなければなりません。
対象地がどちらの規制区域に該当しているか(10条 or 26条)
必要な許可・届出の有無、及び手続き内容の概要
特に注意すべきは、重要事項説明書の「法令上の制限」欄において、盛土規制法に関する説明が他の制限に埋もれてしまい、記載漏れが生じやすいという点です。
また、造成宅地防災区域(第45条)については、別の根拠条文に基づく説明義務となるため、記載欄の取り違えにも要注意です。
● 【ポイント②】工事の届出・許可基準が大幅強化
この法律では、単に「区域に該当している」というだけでなく、どのような行為が届出・許可の対象になるかも細かく定められています。
例えば:
土を盛る・削る
擁壁の設置・改築
高低差のある敷地での排水工事 など
しかも、都道府県や市町村によっては、国基準より厳しい独自条例が上乗せされているケースもあります。
つまり、開発・建売事業を行う場合、事前調査・行政協議・許認可取得にかかる期間とコストは確実に増大します。これを前提に、スケジュールや見積もりを組むことが求められます。近年資材や人件費の高騰もあり住宅価格が上昇しています。この盛土規制法により住宅価格への影響も心配です。
● 【ポイント③】区域確認は「紙ベース+窓口ヒアリング」が鉄則
Web上で公開されている規制区域マップは有用ですが、境界線付近や筆単位での判断には限界があります。誤認による説明ミスは、売主・仲介・買主間の大きなトラブルのもとです。
不動産会社の方で調査の際は、以下を徹底する必要があります:
物件所在地の「規制区域マップ」+「地番」照合
行政窓口(都道府県・中核市・指定都市等)での直接確認
必要であれば図面持参のうえ、窓口で明確に判定を得る
また、許認可権者が市町村に委譲されている場合もあるため、管轄の特定も事前に要確認です。
●【ポイント④】 盛土規制は“進行形の制度”です:5年ごとの見直しも視野に
現時点での指定は確定事項ではなく、概ね5年ごとに「基礎調査」が行われ、区域指定の見直しが実施されます(第4条)。
たとえば、現在は「特定盛土等規制区域」とされている郊外エリアが、都市開発の進展等により、将来「宅地造成等工事規制区域」に移行する可能性も十分あります。
したがって、今後の開発計画やインフラ整備に関する動向も、不動産価値に影響を及ぼすファクターとなるでしょう。
● 【まとめ】“土地の安全性”を説明できることが信頼につながる
規制区域の確認
許可・届出の必要性
重要事項説明書への正確な反映
継続的な制度改正へのアンテナ
これらを丁寧に実践することが、不動産取引におけるプロフェッショナルとしての信頼構築につながると考えております。
盛土規制法は、単なる建築規制の強化ではなく、「人命と財産を守るための基本インフラ」であり、すべての実務者が避けて通れない制度となりそうです。