〜プロとして信頼される調査の進め方とは〜
不動産取引において、宅地建物取引業者が買主または借主に対して交付・説明する「重要事項説明書(重説)」。これは単なる形式的な書類ではなく、契約の根幹を成す、非常に重要なドキュメントです。
適切な内容で作成するためには、何よりも正確で徹底した物件調査が欠かせません。
本記事では、現役不動産エージェントの視点から、重要事項説明書を作成するための調査の手順を、実務ベースでわかりやすく解説します。
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1. 調査の目的を再確認する
調査に出る前に全体像の把握
重要事項説明書における物件調査の目的は、
• 法的なリスクの有無
• 契約上の制限事項
• 物件の利用・再販に関する障害の有無
を明らかにし、取引当事者に正しく伝えることにあります。
誤った情報や説明漏れは、後々トラブルの原因になります。「事前に調査を尽くすことが最大のリスクヘッジである」という意識を持つことが第一歩です。
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2. 基本情報の収集
まずはインターネットで調べられる物件の基本情報を集めます。基本は登記情報提供サービスを使い以下の書類を取得しましょう。
• 登記簿謄本(全部事項証明書)
• 公図・地積測量図
• 建物図面
ここで重要なのは、現況と登記情報にズレがないかを確認すること。所有者名義、面積、構造、附属建物の有無などを丁寧に照合します。
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3. 行政機関での調査
物件の所在地を管轄する市区町村役場、建築指導課、都市計画課などで、以下の内容を確認します。
• 都市計画区域・用途地域・建築確認通知書
• 建ぺい率・容積率
• 接道状況・道路種別(42条1項1号・2号 etc.)
• 建築基準法上の制限(防火・準防火地域、高さ制限等)
• 上下水道・ガスなどのインフラ整備状況
• 土砂災害警戒区域や浸水想定区域の指定の有無
最近ではハザードマップの説明義務が強化されているため、災害リスクの確認は特に重要です。
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4. 現地調査(現地確認)
書面上の情報に加え、実際に現地に足を運ぶことでしか得られない情報も多数あります。
• 隣地との境界確認
• 境界標の有無
• 私道・通行状況の確認
• 騒音・日照・周辺環境の把握
• 設備(給排水・電気・ガスなど)の接続状態
• 道路からの高低差・排水状況の確認
現地に立って初めて気づく「使い勝手」や「違和感」が、実務では非常に重要です。現地での確認により、書類では把握できない情報を得るこのができます。例えば、道路との高低差がある場合、擁壁工事が必要となる場合があります。また境界標が不明な場合には、取引にの内容によっては土地家屋調査士に依頼して確定測量図を作成することも考慮にいれておきましょう。
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5. 管理規約・費用の確認(マンション(区分所有)の場合)
マンションなどの区分所有建物の場合、以下も重要な確認ポイントです。
• 管理規約・使用細則の有無
• 管理会社の情報・管理体制
• 修繕積立金の額・残高・改定予定
• 管理費の滞納状況
• ペット・楽器・リフォーム等の制限
• 大規模修繕の計画有無
区分所有は「建物と管理のセット商品」であるという認識を持ちましょう。
これらの情報は、購入者の生活に直結するため、詳細に確認し、重要事項説明書に正確に記載する必要があります。
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6. 契約に必要なその他情報
• 土地の権利関係(借地権・地上権・地役権など)
• 越境・使用承諾書の有無
• 賃貸中であれば賃貸借契約書・収支明細
• 既存建物の瑕疵履歴・改修記録 • 住宅性能評価書(新築の場合)など
このあたりは経験値とリスク感度が問われる領域でもあります。
特に、境界に関する問題はトラブルの原因となりやすいため、確定測量図や地積測量図の有無を確認し、必要に応じて土地家屋調査士に依頼することが重要です。
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まとめ:調査力こそが信頼につながる
重要事項説明書は、単に“法律で義務づけられた説明書類”ではありません。調査の深さと的確さこそが、エージェントとしての信頼とブランド価値を高めます。
「こんなにしっかり調べてくれているんですね」とお客様に言われたら、それがあなたの営業力の証拠。
この地道な調査こそが、トラブルを未然に防ぎ、紹介・リピートにつながっていくのです。