2025年9月26日、東急不動産がインドの住宅開発事業拡大に向け、新たに「インド住宅開発プロジェクト向け社債ファンド」を組成し、ムンバイの住宅開発案件へ参画すると発表しました。
一見すると、これは単なる海外不動産投資の一環に思えます。しかし背景を深く見ていくと、「経済成長を追い風にした事業拡大」だけでなく、「社会課題解決型投資」そして「日本企業の海外戦略の転換点」としての意味合いが浮かび上がってきます。
インド市場が持つ可能性
インドは2023年に人口で中国を抜き、世界最大の人口大国となりました。中間層が急拡大し、都市部への人口流入は止まりません。特に経済・金融の中心地ムンバイは、住宅需要が逼迫している典型的な都市です。
インド政府は「全ての国民に住宅を」という方針のもと、2015年から住宅政策を推進しており、中間層向けの分譲住宅が強く求められています。これは日本の高度経済成長期に似た状況を思わせます。かつての東京のように、「人口流入と住宅不足」が同時進行しているのです。
ここに日本企業が培ってきた都市開発ノウハウを持ち込み、住宅供給に貢献する。これはビジネスとして合理的であると同時に、現地社会からも歓迎される動きと言えるでしょう。
「社債ファンド」という投資の形
今回の東急不動産の手法は「担保付社債ファンド」。つまり、住宅開発のための資金を複数プロジェクトに分散投資し、信用補完をつけることでリスクを軽減する仕組みです。
これにより、投資家にとっては安定的なリターンを狙える一方、開発側にとっては必要資金を調達しやすくなります。資金循環が生まれれば、住宅供給は加速し、結果的に「住宅不足」という社会課題の解消にもつながります。
投資でありながら「社会貢献」の側面が強い。これこそ、近年重視される「ESG投資」(E(環境)・S(社会)・G(企業統治)に配慮した企業にお金を投資すること)「インパクト投資」(投資によって 「お金を増やす」だけでなく「社会や環境を良くする成果」も生み出そう という考え方)の具体的な事例といえるでしょう。
そもそも「社債」とは?
社債とは、会社が銀行ではなく「投資家から直接お金を借りる」仕組みです。
例えば会社が「住宅を建てたい、でもお金が足りない」となったとき、投資家に「社債を買ってください。後で利息をつけて返します」と約束して資金を集める。これが社債です。
「担保付」とはどういうこと?
「もし会社が約束通り返せなかったらどうなるの?」
そんな不安に備えて「担保」をつけるのが担保付社債です。
担保とは、簡単にいうと「万が一のときの保険」。
住宅開発なら、土地や建物などの不動産を担保に設定しておくことで、会社が返済できなくなった場合でも、その担保を処分して投資家にお金を返せる仕組みです。
つまり「返せなくなったら終わり」ではなく、「代わりに担保から返す」セーフティネットがあるのです。
「ファンド」とは?
ファンドは「お金を出し合って、みんなで投資する箱」のようなもの。
個人が1人で直接インドの住宅開発に投資するのは難しいですが、ファンドに参加すれば少額からでもそのプロジェクトに関わることができます。
今回の東急不動産のケースでは、ファンドが複数の住宅開発プロジェクトに分散して社債を買うことで、リスクを分散しています。
まとめると…
担保付社債ファンドは、
- 会社にお金を貸す代わりに社債を持つ
- 返せなかったときのために土地や建物が担保になる
- ファンドを通じて複数の案件に分散投資できる
という仕組みです。
つまり「比較的安全性を高めつつ、不動産開発に間接的に参加できる投資方法」と言えます。
イメージ例
ちょっと日常に置き換えると…
友達が「カフェを開きたいからお金を貸して!」と言ってきたとします。
- ただ貸すだけだと「返してもらえるかな…」と不安。
- そこで友達は「万一返せなかったら、このお店の設備を売ってでも返すよ」と約束します。これが「担保付」。
- さらに、あなた一人で貸すのではなく、何人かでお金を出し合ってリスクを分け合います。これが「ファンド」。
担保付社債ファンドは、そんなイメージに近い仕組みなんです。
東急不動産の海外戦略と「グローカル」視点
東急不動産はこれまでもグアム、インドネシア、ニューヨークなど海外展開を進めてきました。今回のインド参入は「GROUP VISION 2030」で掲げる「グローカルビジネスの拡大」と直結しています。
「グローバル」と「ローカル」を組み合わせたグローカル戦略とは、単に海外で利益を追求するのではなく、現地社会に貢献しながら共に成長していく姿勢を意味します。
現地の中間層が求める「手が届く価格の住宅」を供給することは、まさにこの考え方の実践です。日本企業がアジアで「一方的な進出者」ではなく「共に課題を解決するパートナー」として受け入れられるためには、この姿勢が不可欠です。
「ムルンド・ウエスト」という選択
今回第1号案件となったのは、ムンバイ北東部のムルンド・ウエスト。鉄道や主要道路でのアクセスが良く、商業モールや教育機関も整う注目のエリアです。
日本でいえば、かつての「郊外型ベッドタウン」の発展過程に近い印象を受けます。交通の利便性と生活インフラの整備が、住宅需要を押し上げているのです。
また、住宅と商業施設を組み合わせた複合開発は、地域に新たなにぎわいを生み、単なる「住む場所」ではなく「暮らしの場」を提供します。これも日本の都市開発で培った強みが発揮される部分です。
不動産投資の「心理学的側面」
不動産は「住まい」であると同時に、人の安心や幸福感に直結するものです。投資というと数字の話に偏りがちですが、実際には「人々が安心して暮らせる住宅があるかどうか」が最も大きな価値です。
インドの中間層が「マイホームを持ちたい」と願う気持ちは、日本の昭和世代が持っていた夢と重なります。この「夢」を支えることこそ、不動産投資の本当の社会的意義だと私は考えます。
日本にいる私たちへの示唆
今回のニュースは「海外の話」で終わらせるべきではありません。むしろ日本国内の不動産市場にも通じる示唆を含んでいます。
人口減少が進む日本においても、都市部への人口集中は続き、住宅のあり方は常に変化しています。海外の成長市場で培った開発や資金調達の手法が、将来日本国内での空き家対策や地域再生にも応用されるかもしれません。
つまり「インドの住宅開発」は、日本の未来を考えるための鏡でもあるのです。
まとめ
東急不動産のインド住宅開発参入は、単なる海外進出ではなく、
- 成長市場における合理的投資
- 社会課題解決型の事業モデル
- 日本の知見を活かした「グローカル戦略」
という複数の意義を持つものです。
私たちにとっても「不動産投資とは社会や人の暮らしをどう支えるのか」という原点を思い起こさせるニュースでした。
投資のリターンはもちろん大切です。しかしその根底にあるのは「人々の安心や夢を形にする」こと。この視点を忘れなければ、不動産事業もまた社会に貢献し続ける力強い産業であり続けるでしょう。

出典:東急不動産株式会社 https://www.tokyu-fudosan-hd.co.jp/news/companies/pdf/0ab2262204ca67c58db2ca9eb5adc73284f516fc.pdf