2024年5月に販売が開始されて、湘南・藤沢市に誕生する「THE TOWER湘南辻堂」が、販売開始からわずか8ヶ月で完売しました。
首都圏郊外のマンション市場が供給過多だと言われる中で、なぜこのプロジェクトだけが突出した人気を得たのでしょうか。
私はこのニュースを、「地方都市の未来の住宅需要の縮図」として、とても象徴的に感じています。
本記事では、単なる販売好調のニュースとしてではなく、なぜ完売したのか/何を示唆しているのか/今後の住宅市場にどんな影響を与えるのかを読み解きます。
湘南辻堂という“ブランド立地”の確立
まず注目したいのは、辻堂というエリアが持つブランド化の進行です。
10年前までは「藤沢と茅ヶ崎の間にある住宅地」程度の印象でしたが、近年の「テラスモール湘南」開業以降、駅前再開発が急速に進みました。
特に、子育て世代・リモートワーカー層からの人気が高まっています。
都心通勤も可能(東海道線で品川まで約45分)でありながら、海と自然が近く、商業施設も充実。この“ほどよい都会感とローカル感”が若い実需層を惹きつけています。
辻堂は今や「湘南の中でも日常生活を犠牲にしないリゾートタウン」として地位を確立したと言えるでしょう。
駅直結・複合開発という「生活動線完結型」デザイン
「THE TOWER湘南辻堂」の最大の強みは、駅直結+商業一体型の生活完結構造です。
徒歩2分という立地に加え、ペデストリアンデッキで駅と直接つながり、雨にも濡れずアクセス可能。
さらに1~3階には11区画の商業施設が入るため、“家を出て5分以内に何でも完結する生活”が成立しています。
この設計思想は、まさにアフターコロナ時代のライフスタイルにぴたりとはまりました。
「リモートワーク中心の生活」「車を持たない選択」「近場で完結する快適さ」。
これらの価値観が広がる中で、駅直結×複合開発は単なる利便性を超えた「暮らしの完成形」として受け止められたのです。
“タワマンらしさ”と“湘南らしさ”の両立
タワーマンションと聞くと、ガラス張りの無機質な超高層をイメージしがちですが、本物件のデザインは湘南の空気感を壊さない工夫が随所に見られます。
白を基調とした外観、ガラス面の開放感、カッシーナ監修によるインテリア、左官仕上げの壁など、どこか「人間味のある上質さ」が漂います。
リゾートライクでありながらも、決して華美ではない。湘南文化へのリスペクトが感じられます。
さらに、サーフボード置き場の設置も象徴的。
この細部にまで「地域との共生」を意識した姿勢が、単なる“外からの開発”ではなく“湘南の暮らしに溶け込む提案”として評価されたのではないでしょうか。
実需層中心の購入者層が示す変化
購入者の約6割が神奈川県内、3割が東京都内という構成も興味深い点です。
つまり「都内からの移住組」と「地元での住み替え組」が共存している。
年齢層は30〜40代が中心で、ほぼ全員が実需(自ら居住目的)。
投資用・転売目的がほとんど見られなかった点も、現在の住宅市場のトレンドをよく表しています。
ここには、“資産としてのマンション”から“暮らしの拠点としてのマンション”へという価値観の変化があります。
人々が「価格上昇で得をするか」よりも「どんな生活をしたいか」を重視するようになった——。
湘南辻堂の完売は、その意識の変化が明確に形になった事例と言えます。
デベロッパーの“地元との関係構築力”が鍵
この成功は、リストグループの開発力だけではなく、地権者との長年の信頼関係の賜物でもあります。
実はリストは10年前にも同エリアで「リストレジデンス辻堂タワー」(2014年)を開発しており、その実績が今回の土地集約につながりました。
大規模開発を成功させるには、地域の信頼を得ることが何よりも重要です。
どれだけ設計が優れていても、地元から「また外からの再開発だ」と見られてしまえば、地域ブランドの価値は下がります。
リストが湘南で信頼を積み上げてきた姿勢こそが、今回の“8ヶ月完売”の裏の本質です。
“都市の縮図”としての湘南辻堂モデル
このプロジェクトは、単なるマンション開発ではなく、都市生活の新しい形の実験でもあります。
東京のような超高密度都市でもなく、地方のように車前提でもない。
「駅徒歩2分・自然近接・商業一体・ワークラウンジ完備」というバランスは、まさに“これからの日本の都市モデル”そのものです。
言い換えれば、“地方都市の都心化”が始まっているのです。
辻堂のような地方中核駅が、次世代の都市生活の中心となる。
この潮流は、今後の柏の葉、武蔵小杉、幕張ベイなどにも共通して波及していくでしょう。
今後の市場展望と課題
ただし、成功の裏には課題も見えます。
価格は非公開ながら、推定で坪単価400〜500万円前後と見られます。
これは「湘南」という立地を考えても高水準。
今後の金利動向や所得格差を考慮すると、“選ばれし人の街化”が進む懸念もあります。
街の活気を維持するためには、中間層も暮らしやすい環境設計が欠かせません。
分譲・賃貸・商業のバランス、そして地域コミュニティとの連携が、長期的な街の魅力を左右します。
結論:「売れた理由」は“湘南タワマン”ではなく“湘南ライフの再構築”にあった
「THE TOWER湘南辻堂」が示したのは、単に“駅近で便利なタワマンが売れた”という話ではありません。
本質は、「湘南という地域ブランドを、現代の暮らし方にアップデートした」という点にあります。
タワーマンションという器を通じて、
“海を感じながらも便利に暮らす”というライフスタイルを再提案した。
それこそが完売の理由であり、今後の地方都市開発における重要なヒントです。




出典:不動産流通研究所 https://www.re-port.net/article/news/0000080262/

