2025年11月、積水ハウス・小田急不動産・長谷工不動産などが参画する大規模再開発プロジェクト「多摩川シーズンズ」のモデルルームがオープンしました。
この事業は「マンション建替え円滑化法(通称:マンション建替え法)」に基づく再開発であり、日本の老朽マンション問題が“実行フェーズ”に入った象徴的な出来事といえます。
首都圏だけでも築40年以上のマンションは約120万戸にのぼり、耐震性や老朽化、修繕費の高騰といった課題が山積しています。
しかし、所有者の合意形成や再建資金の問題から、実際に建替えに至るケースはわずか数%にとどまっています。
そうした中で今回の「多摩川住宅ニ棟団地建替事業」は、2007年の協議会発足から実に18年を経て本体工事に至った、粘り強い成功例となりました。
“自然と共生する街”としての再生モデル
「多摩川シーズンズ」という名称の通り、このプロジェクトが掲げるテーマは“自然との共生”です。
約1ヘクタールの敷地に、公園や遊歩道、桜並木、イチョウのゲートなどを配置し、四季折々の風景を街全体で楽しめるデザインとなっています。
都市の中にありながらも、暮らしの中で「季節を感じる余白」を取り戻すことを目指しています。これは、昭和の団地が持っていた“人と自然の距離の近さ”を、現代的に再構築する試みといえます。
建物自体も、ZEH-M Oriented(ゼッチ・マンション・オリエンテッド)認証を取得予定で、省エネ性能や断熱性を高めた設計です。
長期優良住宅として、持続可能性と資産価値を両立させようという姿勢が見られます。
“利便性”より“心地よさ”の時代へ
共用部には、AIカメラを活用したスマートショップや、コーヒーラウンジ、IoT対応ランドリーなどが整備される予定です。
一見すると「便利さ」を追求した設備のように見えますが、その本質は「交流」と「心地よさ」を重視した設計にあります。
ミニショップで焼きたてのパンを買い、緑あふれるカフェラウンジでくつろぐ。
同じマンションの住民同士が、自然な形でつながるコミュニティ設計が随所に見られます。
子ども向けの「トイサブ!」導入キッズルームや、青山ブックセンター選書によるライブラリーなどもその一環です。
“ハードではなくソフトで人をつなぐ”という方向性は、これからの住宅開発における重要なテーマになると思います。
住民同士が顔を合わせ、ゆるやかに助け合える街は、人口減少時代において最も強い“安心のインフラ”といえるでしょう。
「団地再生」は、もはや社会インフラ事業です
この建替え事業の意義は、単なる一マンションの再開発にとどまりません。
いま日本では、全国で約6,000団地が建替え期を迎えています。
その多くが昭和30〜40年代に建設され、すでに配管・給排水設備・耐震性能が限界に近い状態です。
もしこれらの建物が一斉に機能を失えば、住宅問題だけでなく「社会基盤の崩壊」につながりかねません。
つまり、マンション建替えは“公共的な使命を帯びた民間事業”でもあります。
民間デベロッパーの投資判断だけでなく、行政、住民、金融機関が一体となって進めていくべきプロジェクトなのです。
今回、積水ハウス・長谷工・小田急という住宅業界のリーディングカンパニーが連携して取り組むことには大きな意味があります。
彼らが得る知見やノウハウは、全国の老朽マンション再生モデルとして活用されていくことでしょう。
「住み継ぐ」という価値観の再定義
このニュースを見て私が感じたのは、“住み替え”ではなく“住み継ぐ”という考え方が、ようやく現実味を帯びてきたということです。
これまで日本の住宅市場は「スクラップ&ビルド」型であり、古くなった建物は壊して新しく建てるのが当然とされてきました。
しかし、人口減少・環境負荷・相続課題などが重なる中で、地域資産を活かしながら再生していく“サステナブルな循環型都市”への転換が求められています。
「多摩川シーズンズ」は、まさにその先駆けです。
世代を超えて受け継がれる街、地域に開かれた団地、そしてコミュニティが主役となる暮らし。
こうした理念が、マンション建替えという実務的な課題の中に息づいている点が素晴らしいと思います。
投資・不動産の視点から見た“新しい価値”
投資家や購入検討者にとっても、このプロジェクトは注目に値します。
ZEH-M仕様やCASBEE Aランク取得による「光熱費削減+資産価値維持」は、将来的にリセール市場でも強みとなります。
また、AIショップやEV充電などの設備は、“暮らしのDX(デジタルトランスフォーメーション)”を反映したマンションとして希少性が高いといえます。
加えて、1,200戸超というスケールは管理コストの分散効果が大きく、安定的な管理運営が可能です。
「長く住むほど安心できるマンション」として、中長期の資産形成にも適していると考えられます。
最後に――「人が主役のまちづくり」へ
多摩川シーズンズのモデルルーム開設は、単なる販売告知ではなく、日本の住宅史における“転換点”だと感じます。
建替えを通じて、建物だけでなく「人のつながり」「地域の記憶」「暮らしの質」を再生していく。
それこそが、これからの時代に求められる“真のまちづくり”ではないでしょうか。
私たちは今、便利さより「心地よさ」、新しさより「持続可能性」を選ぶ時代にいます。
多摩川シーズンズの挑戦が、その理想を形にする最初の一歩になることを期待しています。

出典:積水ハウス株式会社 https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/topics_2025/20251106/

