「マンション価格、12ヵ月連続上昇」。ニュースの見出しだけを見ると「不動産市場は絶好調!」と感じるかもしれません。しかし、果たしてそれは本当に喜ばしいことなのでしょうか?
首都圏の中古マンション価格が12カ月連続で上昇したという今回の発表。その一方で、神奈川・埼玉・千葉といった周辺エリアでは下落が目立ちます。この数字の背景には、単なる需給バランスではなく、心理的要因、人口動態、さらには国際マネーの動きが複雑に絡んでいます。
今日はこのニュースを「哲学」と「マーケティング」、そして「経営の視点」から切ってみましょう。
首都圏はなぜ強い?東京だけが突出する理由
まず注目したいのは、東京都が8,908万円(前月比0.9%上昇)と15カ月連続の上昇という事実。さらに、東京23区の平均価格は1億477万円、都心6区に至っては1億6,699万円。もはや「億ション」という言葉が当たり前になってきました。
なぜこれほど東京だけが強いのでしょうか?
その理由の一つは「国際的な資金の流入」です。円安基調が続くなか、海外投資家にとって日本の不動産は割安感があります。特に富裕層は、都心の不動産を資産の一部として保有することで、インフレリスクをヘッジしています。
外国人投資家からみた億ションは、13年前の1ドル=80円台なので約125万ドルでしたが、それが今は150円となると今はわずか66万ドル程度です。同じ1億円でも、ドルベースで見れば半分近くになったということです。
さらに心理学的な要因も見逃せません。人は「価格が高いものに価値を感じる」ヴェブレン効果の影響を受けやすい。東京の一等地で「上昇し続けている」という事実そのものが、さらなる需要を生み出しているのです。
ヴェブレン効果とは、「価格が高いほど、その商品に価値があると感じ、むしろ欲しくなる」という現象です。
通常は価格が上がると需要は減りますが、ヴェブレン効果が働く商品(高級ブランド品や高級不動産など)は、高価格そのものがステータスや希少性を示すため、需要が増えるという特徴があります。要するに、「高い=特別=欲しい」という心理が購買行動を後押しする現象です。
一方で、神奈川・埼玉・千葉はなぜ下落?
東京の高騰と対照的に、神奈川・埼玉・千葉では下落傾向が出ています。神奈川は0.8%下落、千葉は0.7%下落。
背景にあるのは「郊外需要のピークアウト」です。コロナ禍では「テレワーク需要」で郊外や地方のマンションが注目されましたが、ここにきてオフィス回帰が進んでいます。加えて、物価高と住宅ローン金利の上昇が、郊外物件を購入するファミリー層にとって心理的な負担になっているのです。
つまり、「東京に住めないから郊外」という選択が弱まり、むしろ「どうせ高いなら、より価値のある都心に」という動きが強まっています。
大阪・名古屋の動向に見る「地域格差」
近畿圏では、大阪市中心6区が8,194万円と2.3%の上昇。東京と同じく、都市の中心部が強い構図です。一方、名古屋は中心3区で3,837万円と2.3%の下落。この差は何を意味するのか?
大阪は関西圏全体の求心力が強く、再開発やインバウンド需要の恩恵を受けています。万博効果も心理的な後押しに。一方、名古屋は産業都市であり、都市のブランド力や国際的な投資需要では東京や大阪に劣ります。ここにも「都市ブランド格差」が表れています。
この先どうなる?2025年後半のシナリオ
ここで気になるのは、「この上昇はいつまで続くのか?」ということ。
私の見立てでは、短期的には東京の都心部は強含みが続くでしょう。海外マネーの流入はすぐには止まりませんし、国内の富裕層も円資産の保全先として都心不動産を選び続けます。
しかし、中長期的には注意が必要です。人口減少という構造問題は変わらない。特に郊外や二級都市では需給バランスの崩れが加速する可能性があります。つまり、「二極化」はさらに進むということです。
哲学的な視点:「価値」とは何か?
ここで一歩引いて考えてみましょう。「1億円のマンションが高いのか安いのか?」
価値とは相対的なものです。他者との比較、社会的な文脈、そして心理的な満足度によって決まります。
たとえば、ある人にとっては「職住近接で得られる時間の自由」が1億円以上の価値を持ちます。別の人にとっては「自然に囲まれた暮らし」が同じ価値を持つでしょう。
価格の上昇は、必ずしも豊かさの上昇を意味しません。むしろ、「住まいとは何か」という本質的な問いを、私たちに投げかけているのかもしれません。
まとめ
今回のニュースは、「東京一極集中」と「心理的要因」が強く作用している」ことを示しています。
今後の不動産市場を読むうえで重要なのは、「価格の数字」だけでなく、その裏にある人間の行動心理と社会の構造です。
もしあなたが今、住まいや投資を考えているなら、数字に踊らされず、あなた自身の価値観を基準に選んでください。それが、どんな時代でも後悔しない選択につながります。
出典:不動産流通研究所 https://www.re-port.net/article/news/0000079623/