不動産業界大手のオープンハウスグループが発表した2024年10月〜2025年6月期の連結決算は、純利益706億円と前年同期比3%増という結果でした。
この数字だけを見ると「横ばい気味かな?」と思うかもしれませんが、実は中身を見るとかなり明るい材料が多い決算内容です。
1. 数字の背景——利益率の改善が大きい
売上高は9397億円(前年同期比5%増)、営業利益は1022億円(同27%増)という伸び。
営業利益の伸び率が売上高を大きく上回っているのは、在庫の入れ替えや事業ポートフォリオの工夫で利益率が改善した証拠です。
住宅業界は、売上よりも利益率の確保が難しい業種です。土地仕入れのタイミング、金利動向、建築コスト、広告費など、外部要因に左右されやすい。そんな中で、営業利益率を改善できているのは経営の筋肉がついてきた証ともいえます。
2. 戸建て需要回復の本当の理由
発表では「大都市圏の戸建て需要回復」とありますが、この背景にはいくつかの要因が絡んでいます。
- 金利は上がっても、まだ“支払える”と感じる層が多い
日本の住宅ローン金利は欧米に比べれば依然低水準。都市部の中堅所得層は、金利上昇よりも「家賃を払うくらいならローンで」という意識を持ちやすい環境です。 - マンション価格の高騰
特に首都圏では新築マンションの平均価格が1億円に迫るエリアも。これに対して、郊外寄りやコンパクト設計の戸建ては“手の届く”価格帯に収まりやすく、選択肢として再評価されています。 - 在宅勤務文化の定着
コロナ禍以降、週に数日は自宅勤務という働き方が残っており、家の広さや間取りを重視する人が増えたことも後押しです。
3. マンション・収益不動産事業も堅調
マンション事業は販売契約が通期計画の97%に到達。これはかなり高い水準で、ほぼ計画通りの消化です。
また、収益不動産事業は営業利益が145億円と前年同期比67%増。投資用不動産への需要が根強いことを示しています。特に都市部の賃貸ニーズは堅調で、インバウンド需要や人口集中のトレンドも味方しています。
4. 据え置かれた通期予想の意味
通期の業績予想は、売上高1兆3100億円(前期比1%増)、純利益1000億円(同8%増)と据え置き。
これは「慎重な姿勢」とも取れますが、裏を返せば、今の市場環境を冷静に見ている証拠。過度な強気予想を出さないことは、投資家からの信頼維持にもつながります。
5. 業界全体への示唆
今回の決算から見えてくるのは、日本の住宅市場は一枚岩ではないということです。
地方や過疎エリアでは需要減少が進む一方、都市部やその近郊では**「価格と立地のバランスが取れた物件」**に需要が集中しています。
また、投資用不動産の動きからも分かるように、「住むための家」と「資産としての不動産」は別々の市場として動いており、双方に資金が流れています。
6. 私の視点——生活者と投資家へのヒント
- 生活者向け
都市部でのマイホーム購入を検討している方は、価格の上昇ペースが落ち着いてきた今が、ある意味で“見極め時”。ただし金利上昇リスクや固定資産税の負担は計画に織り込みましょう。 - 投資家向け
今後も都市部の賃貸需要は底堅いと予想されます。利回りだけでなく、将来の売却時に評価されやすい立地・間取り・築年数を見極めることが重要です。 - 経営者視点
オープンハウスが行った「在庫の入れ替え」は、あらゆる業種にも通じる教訓。売れ筋・不良在庫の見極めと入れ替えは、景気の波を乗り越える重要な戦略です。
まとめ
今回の決算は、単なる数字の改善以上に、経営戦略の方向性と市場の構造変化を映し出しています。
不動産市場は「もう上がらない」と言われ続けても、条件次第で需要は動く。都市部の戸建て需要回復は、その好例です。
景気や金利の変化は避けられませんが、数字の裏にある「なぜ」を読み解くことで、次の一手が見えてきます。
そしてそれは、企業経営にも、個人の住宅購入や投資判断にも共通する視点です。
出典:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC136B80T10C25A8000000/