「KÚON 箱根強羅」に見る、“モノ”から“心”への転換。オープンハウスが描く、新しい不動産のかたち

2025年11月8日、箱根強羅に新たな風が吹きます。
オープンハウスグループが手がける直営ホテル「KÚON(クオン)箱根強羅」が開業しました。全14室、すべての部屋に源泉かけ流しの温泉を備え、「お茶と和菓子で五感をひらく」というコンセプトを掲げるスモールラグジュアリーホテルです。

ニュースリリースを読むと、単なる宿泊施設の誕生というよりも、「不動産業から“体験産業”への進化」を感じます。
今日はこのニュースを、経営・マーケティング・哲学の観点から読み解いてみたいと思います。


目次

不動産企業がホテルを開業する意味――「箱モノ」から「時間」への転換

オープンハウスといえば、都心の戸建てやマンション分譲で知られる企業です。
その彼らが、なぜ今「ホテル」という舞台に挑むのか。
その背景には、不動産業の大きな構造転換があります。

これまでの不動産業は「モノの販売」、つまり土地や建物という資産を“所有する”ことが価値の中心でした。
しかし少子高齢化、ライフスタイルの多様化、そしてAI時代の到来により、消費者が求めるものは「所有」ではなく「体験」へと移っています。

ホテルというのは、不動産そのものを「時間で切り売り」する事業です。
つまり、建物を“商品”としてではなく、“物語”として提供する。
KÚONのようなスモールラグジュアリータイプは、まさにこの時代のニーズを象徴しています。


「KÚON(久遠)」という名に込められた哲学

KÚONという名前は、「久遠=永遠」という日本語に由来していると思われます。
そしてそのコンセプトは「現代を立ち止まる居場所」。
私はここに、哲学的なメッセージを強く感じます。

私たちは、スマホの通知に追われ、常に情報の波にさらされています。
そんな現代において、「立ち止まる」こと自体が贅沢になりました。
KÚONは、物理的な宿泊施設であると同時に、“心を休ませる装置”なのです。

先日、私は岡田宗凱さんの炉開きにお誘いいただき、
まさに「立ち止まる」「自身を見つめ直す」、心を休ませ自分と向き合い、生きる意味について学んできました。
※以下の写真は岡田宗凱さんからご提供されたもので、今回のホテルとは関係はございません。

お茶と和菓子を通して五感をひらく。
これは、単なる飲食の提供ではなく、「感性を再起動させる体験」です。
お茶を淹れる所作、湯気の香り、和菓子の儚い甘み――すべてが、心のノイズを静め、自己と向き合う時間を与えてくれます。

哲学的に言えば、これは“存在の回復”です。
現代社会の「すること(Do)」に偏った時間軸から、「あること(Be)」への回帰。
人が人であるための「静の時間」を提供しているのだと感じます。


デザインと経済の融合──ラグジュアリーの再定義

このホテルのもう一つの特徴は、「デザインの統合性」にあります。
デザイナー永井健太氏による空間再構築、そして全室にかけ流し温泉を設置。
大浴場を廃し、その代わりに「tea lounge」を設けるという発想は、非常に象徴的です。

従来のホテルでは「みんなで入る大浴場」が価値の中心でしたが、KÚONでは「自分だけの湯」と「自分だけの時間」に重心を置いています。
これは、マスからパーソナルへの価値転換を意味します。

経営的に見れば、全14室という少数構成はスケールメリットを狙ったモデルではありません。
むしろ「一人あたり単価を高め、滞在体験でファンを生む」ブランド戦略です。
これはAirbnb以降の宿泊トレンド――量よりも質、広さよりも深さという考え方に通じます。


「お茶」と「和菓子」が示す日本再発見のストーリー

私は、このホテルの最大の価値は「和文化の再編集」にあると思います。
海外から見れば、日本の魅力はまさに“おもてなし”と“繊細な感性”にあります。
しかし日本人自身がその価値を忘れかけていた。

KÚONは、それをもう一度“観光”という形で再提示しています。
和菓子作家・坂本紫穗氏による「菓席(かせき)」という言葉づかいにも、静かな美意識が宿ります。
チェックインの瞬間から“おもてなしの儀式”が始まる。
これは単なる宿泊ではなく、「滞在=体験芸術」と言えるでしょう。


不動産会社が観光を手がける、その社会的意義

もう一つ注目すべきは、オープンハウスが設立した新会社「オープンハウス・ホテルズ&リゾーツ」の存在です。
彼らは「観光を起点に地域の元気をつくる」と宣言しています。
つまり、土地を売る企業から、“土地の文脈を生かす企業”へと進化しているのです。

これは、地方創生や観光立国を目指す日本にとっても重要な動きです。
強羅という土地が持つ「温泉」「自然」「アート」「歴史」を掛け合わせることで、単なる宿泊需要以上の価値を創出できる。
そして、それを通して地域経済が潤い、働く人が誇りを持てる場所が増えていく。
この循環こそ、真のサステナビリティではないでしょうか。


「止まる勇気」を持てる場所が、これからの贅沢になる

時代がどれだけ便利になっても、人の心はいつも「静寂」を求めています。
忙しさを競う社会の中で、“立ち止まる”ことは一種の勇気です。
KÚONは、そんな現代人に「止まる理由」を与える場所なのかもしれません。

経営の視点から見れば、これは“消費の成熟”の象徴です。
モノを持つ豊かさから、体験を味わう豊かさへ。
そして、最後に残るのは「感情の記憶」です。
このホテルが提供しているのは、まさにその“記憶をつくる空間”なのです。


まとめ:「不動産が人の心を動かす時代へ」

「KÚON 箱根強羅」は、単なるホテル開業ニュースではなく、不動産業の新しい未来図を示す出来事です。
土地を売る会社が、「人の心を癒す空間」をつくる。
これは“産業の再定義”であり、同時に“文化の再生”でもあります。

不動産の価値とは何か。
それは、立派な建物を建てることではなく、そこに流れる時間をどれだけ豊かにできるか
そうした意味で、オープンハウスの挑戦は、今後の地域開発や観光再生のヒントにもなるはずです。

KÚONという名前の通り、そこに流れる時間は「久遠=永遠」。
私たちが失いかけた“静かな豊かさ”を、もう一度取り戻す旅が、箱根から始まります。

出典:オープンハウスグループ リリース https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000835.000024241.html

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