今回は、総合不動産企業である リスト株式会社(およびその子会社リストデベロップメント)が、長野県軽井沢町にて「ラグジュアリーホテルコンドミニアム」開発を発表したというニュースに着目します。私の哲学的観点、マーケティング観点、そして不動産/旅のトレンドの観点から、三つの視点で分析しながら、みなさんにとっても考察に値する「所有×滞在」の新モデルについてお話します。
ニュースの概要
まずは概要を整理します。リストデベロップメントは、軽井沢町にて “(仮称)軽井沢町ホテルコンドミニアム計画” を発表しました。
運営は温故知新が担い、17室・全スイート・温泉付き半露天風呂付きという、極めて上質な仕様です。オーナーさんが部屋を購入し、別荘利用した後使わない期間はホテル運営に賃貸に出せる「ホテルコンドミニアム」形式を採っています。
アクセスも、東京駅から北陸新幹線「軽井沢」駅まで約1時間と良好。景観・自然・地域観光資源とも整合。リストグループのこれまでのマンション・リゾート分譲の延長線上にある開発ですが、明らかに “所有する滞在” にフォーカスしたモードです。
なぜ「今」このモデルなのか?
1. 所有欲&体験欲の交差点
人間の欲求を哲学的に捉えれば、「所有」と「経験(体験)」はしばしば反発関係にあります。過去には「所有すれば安心」という考えが主流でしたが、近年は「体験を持つ」こと=人生価値という価値観が台頭しています。
しかし、この軽井沢モデルはその両者を掛け合わせてきています。つまり:
- 所有:17室をオーナーが購入し、資産として持つ。
- 体験:ホテルとして運営されるラグジュアリー滞在を実現。
この「所有しつつ、使わないときに他者に使ってもらう」モデルは、“所有”のハードル・維持管理コストというネガティブを軽くしながら、“体験価値”を提供できるという点で絶妙です。
実際、記事にも「維持管理の手間・コストを軽減しながら、資産として運用可能」と明記されています。
2. リゾート地・軽井沢ならではの優位性
軽井沢という場所を考えてみてください。都心からのアクセスも良く(東京駅から新幹線で約1時間)という点が強みです。
また、自然・文化・温泉・ショッピングなど観光資源が多彩。リゾートとしての“滞在価値”がもともと高い。
このような背景があるからこそ、「所有滞在モデル」が成立しやすい。場所が魅力でなければ、“ただの所有”に終わってしまうからです。
記事でも、「東京からの優れたアクセス」「四季折々の自然美と洗練されたリゾート文化」などが強調されています。
3. ホテルコンドミニアムというスキームの拡張
ホテルコンドミニアムとは、オーナーが部屋を所有しつつ、ホテル運営に貸し出すことで収益化・維持管理の軽減を図るスキームです。
このスキームは最近増えており、観光リゾート地や別荘地で強まってきています。軽井沢でも、分譲ホテルコンドミニアム自体が増加傾向にあります。例えば、東急不動産が軽井沢初の新築分譲ホテルコンドミニアム「グランディスタイルホテル&リゾート旧軽井沢」を打ち出している例もあります。
つまり、このモデル自体がトレンドとなりつつある背景があります。
成功の条件とリスク提示
このモデルが成功するか否かは、いくつかの条件とリスクの把握が重要です。私が経営者・マーケッター・哲学者の立場から「これだけは押さえておきたいポイント」を整理します。
成功の条件
- 希少性・差別化
全17室・全室スイート・温泉付きという仕様は希少です。ラグジュアリーというキーワードを体現しており、単なる別荘・マンションではないことを印象付けています。 - アクセスと立地の魅力
都心からのアクセスが良く、軽井沢というブランド力も強い。滞在需要を確保しやすい。 - 運営体制の信頼
運営を任せる「温故知新」が、すでに実績あるラグジュアリーホテル運営会社である点がプラス。信頼ある運営はオーナー、滞在者双方に安心感を与えます。 - マーケットのニーズ変化
コロナ後、「旅そのもの」「滞在そのもの」に価値を見出す人が増えています。いわゆる「リトリート」需要。記事でも温故知新は「旅の目的地=ディスティネーションホテル」の可能性を広げるとしています。 - 維持管理・収益の仕組み
所有して使わない期間はホテル運営に貸し出せる点。維持管理を任せられ、空室リスクや管理コストの軽減になります。
リスクと留意点
- 景況変化・観光需要の変動
観光・滞在需要は景気・為替・旅行トレンドに敏感です。想定より稼働率が落ちると、オーナー期待・収益スキームに影響します。 - 取得価格・所有コストの負担
ラグジュアリー仕様ゆえに取得価格も高額になる可能性が高い。購入だけでなく固定資産税・管理費・修繕費なども考慮が必要。 - 流動性の低さ
17室という限られた規模であるため、売却や転売時の流動性がマンション・一般アパートほど高くない可能性があります。 - ブランド/運営の維持
ラグジュアリーを維持するためには運営・サービスの質が重要。運営会社が期待通りに機能しなければ価値が毀損される恐れがあります。 - 環境・地域住民との関係
大規模リゾート開発では、自然景観・地域住民・環境配慮が問われます。軽井沢のような自然価値の高い場所では、景観配慮や植栽計画が重要です。記事でも「景観に配慮した外観デザイン」「木々や光と呼応する」「自然と調和」と言及されています。
マーケティング&心理学からの視点
所有と滞在のパラドックス
哲学的に言えば、「所有は束縛をもたらす」とも言えます。一方、「滞在・旅・体験」は時間の流れを感じさせ、「今ここ」に意識を集中させます。このホテルコンドミニアムモデルは、その二つを融合させようというものです。つまり:所有という静態と、滞在という動的経験を両立させようとしている。これは人間の「両義的欲求」を捉えたものとも言えます。
心理的には、“この時間・場所を持つ”という所有欲を満たしつつ、“ここで過ごす特別な時間”という体験欲を満たす。マーケティング上、これは強力な訴求です。
ストーリー設計が鍵
この種の物件では、ただ「高級です」「所有できます」というだけでは差別化になりません。成功するためには、以下のようなストーリー設計が重要です。
- 「軽井沢ならでは」の価値:自然・文化・温泉・四季折々。
- 「非日常」の体験:全室スイート・半露天風呂・森に溶け込む設計。
- 「所有×運用」の安心:別荘として楽しみ、使わないときはホテル運営へ。
消費者(=潜在オーナー・利用者)にとって、「自分だけの特別な場所を持つ」という物語が伝わるかどうかが鍵になります。
リゾート需給と心理的安心
所有するという選択肢を持つことで、ユーザーは「いつでも行ける」という心理的安心を得ます。旅のプランを毎回検討するストレスや宿泊予約の不確実性を回避できます。これは来るべき“所有する滞在”という考え方が、心理的に強みを持つ理由の一つです。
今、私が注目するポイントと読者への問いかけ
このニュースを受けて、私が特に注目しているのは以下の点です。
- 小規模・ラグジュアリーというスケール感:17室という数は、希少性を高めると同時に、コミュニティとしての“プライベート感”も出せます。
- 軽井沢という場所のブランド力:都心からのアクセスが良く、かつ豊かな自然・文化・観光資源を持つ軽井沢であるからこそ、このモデルが成立しうる。
- ブランド運営会社・運用スキームの明確さ:温故知新という“旅の目的地をつくる”運営会社が起用されている点。
- 所有⇔運用の切り替え可能性:別荘として使用、使わないときはホテル収益化。これは所有に伴う“遊休”リスクを軽減する工夫です。
- 景観・環境・地域調和への配慮:過度なランドマーク化を避け、森の中に静かに溶け込む設計という言葉。土地価値・地域価値を損なわずに開発することがポイントです。
読者のみなさんと一緒に考えたい点:
- あなた自身が“別荘所有”や“ラグジュアリー滞在”を考えるとき、どの価値が一番大きいと感じますか?「所有感」「体験感」「資産価値」「管理の手軽さ」など。
- また、「このようなホテルコンドミニアムを購入する/利用する」という選択肢について、どのくらい現実味があると感じますか?心理的障壁、資金面、ライフスタイル面から考えてみると興味深いです。
結びに:現代の不動産・旅トレンドからの示唆
今回のニュースは、不動産・旅・ライフスタイルの交差点を象徴しています。
かつて「別荘を持つこと=富の象徴」であった時代から、これからは「所有しつつも使わないときに誰かに使ってもらう」「滞在そのものを価値とする」という時代へ移り変わりつつあります。これは、ライフスタイルの変化を捉えたモデルです。
人は「所有」から解放される一方で、「関係性」や「体験」に価値を見出しています。だからこそ、所有しながらも“滞在という関係性”をホテルコンドミニアムという形で設計してしまうというのは、まさに時代の要請に応えた動きだと思います。
経営・マーケティングの観点では、いかに「ストーリーを語るか」「希少性を設計できるか」「運営・所有・体験をいかに統合できるか」が問われます。この軽井沢プロジェクトはそれを高次で実現しようという試みと言えます。
リストグループは国内不動産だけでなく、今まで15年以上にわたり海外不動産にも携わっています。中でも別荘地として人気のあるハワイでは、今回のようなラグジュアリーホテルコンドミニアムは需要が高く、彼らには運用も含めてノウハウがあります。希少性が高く、ロケーションもよい今回のプロジェクト、以前に携わっていた私としても大変楽しみです。
最後に。皆さんにとって、「所有」と「滞在」、どちらがより深い価値を持つのでしょうか?それを問い直すことで、自分のライフスタイル、将来の資産観、旅のあり方が見えてきます。今回の軽井沢プロジェクトは、その問いを具現化したひとつのモデルとして興味深く、今後も動向を注視していきましょう。


出典:リストグループ https://cms.list.co.jp/news/wp-content/uploads/2025/10/pressrelease20251022.pdf

