2025年9月19日、愛知県西尾市とLIFULLグループのLIFULL ArchiTechが、全国初となる「災害時におけるインスタントハウスの供給協定」を締結しました。これは一見すると地方自治体と民間企業の一つの連携事例ですが、よく見ていくと「日本の防災のあり方」を大きく変える可能性を秘めた重要なニュースです。
本記事では、今回の協定の背景、意義、そして今後の広がりについて整理しながら、私の考えをお伝えします。
インスタントハウスとは何か?
インスタントハウスは、名古屋工業大学とLIFULLが共同開発した、数時間で設営可能な小型の居住空間です。空気で膨らませたテントの内側に断熱材を吹き付けるというシンプルな工法で作られます。
特徴は以下の通り:
- 数時間で設営可能
- 高い断熱性・耐久性・耐震性を備える
- 建築物ではなく「非建築物扱い」なので設置が容易
- 宿泊スペースや医療室、倉庫、子どもの遊び場など多用途に活用可能
つまり、避難所や仮設住宅が整う前の「空白の時間」を埋める存在だといえます。
能登半島地震での実績と課題
2024年の能登半島地震では、280棟のインスタントハウスが導入されました。そこでは、避難スペースだけでなく、感染症隔離室やペット同伴の避難場所、子どもが安心して遊べる空間など、従来の避難所では難しかったニーズに応える形で活用されました。
一方で課題も浮き彫りになりました。
- 発災直後は行政職員自身も被災しており、支援の受け入れに時間がかかる
- 多様なニーズを把握・整理して供給につなげるまでに混乱が生じる
「すぐに供給できる体制」が整っていなかったのです。
今回の協定の意義
西尾市とLIFULL ArchiTechの協定は、こうした課題に対応する仕組みづくりです。ポイントは以下の3点です。
- 発災直後からスムーズに供給できる体制を確立
- あらかじめ協定を結んでおくことで、混乱期でも即座にインスタントハウスを要請・設置できる。
- 自治体職員の負担を軽減
- 初動の調整を簡素化することで、被災者対応に集中できる。
- 市民の多様なニーズに応える柔軟性
- 子育て世帯、ペット同伴、医療支援など、状況に合わせた空間を迅速に提供可能。
西尾市はこれを「地域防災力を高める新たな選択肢」として位置づけています。
「住まいはインフラ」という視点
私は不動産業に長く携わってきましたが、今回の取り組みを見て改めて感じるのは、「住まいはインフラ」であるということです。
水や電気、道路と同じように、住まいもまた人が安心して生きるために欠かせない基盤です。特に災害時には、住まいの確保がその後の生活再建の出発点になります。
インスタントハウスは、住まいを「早く」「柔軟に」確保する仕組みを提供しています。これは単なる住宅供給ではなく、「尊厳を守るためのインフラ整備」と言っても良いでしょう。
今後の広がりと期待
今回の協定は全国初の試みですが、ここから各自治体に広がっていく可能性があります。
- 都市部のマンション住民向けの活用:高層マンションで被災し、避難所に行きにくい高齢者世帯にとっての代替住居。
- 観光地での備え:旅行者が災害時に取り残されないように一時的に収容する仕組み。
- 企業との連携:大規模工場や物流拠点での一時待機スペースとして導入。
さらに、西尾市では市庁舎で実物展示を予定しており、防災教育や市民への啓発にもつながります。
大橋登の視点:「安心をデザインする時代」へ
哲学を学んだ者として少し踏み込むなら、インスタントハウスが象徴するのは「物理的な住まい」以上の価値です。
- それは「安心の共有」であり、
- 「人と人の尊厳を守る仕組み」であり、
- 「未来の地域社会の形」をデザインする試みでもある。
日本は自然災害の多い国ですが、その中で「安心をどうデザインするか」がこれからの防災・都市計画のテーマになっていくでしょう。
インスタントハウスの協定は、単なる設備導入ではなく、社会全体で安心を支えるための大きな一歩だと考えています。
まとめ
今回の西尾市とLIFULL ArchiTechの協定は、
- 発災直後の混乱を減らす
- 被災者の多様なニーズに応える
- 住まいをインフラとして守る
という観点から非常に意義深い取り組みです。
今後、全国に広がることで、日本の防災のあり方そのものを変えていく可能性があります。私たちも「自分の地域にこうした仕組みがあるか?」を意識しながら、防災に備えていく必要があるでしょう。



出典 株式会社LIFULL https://lifull.com/news/44944/