9月1日、住宅金融支援機構が発表した「フラット35」の最新金利は、2カ月連続で上昇しました。
融資率9割以下で借入期間21年以上の最頻金利は年1.890%、前月比0.020%のアップ。
20年以下の借入でも1.500%と、こちらも同様に0.020%の上昇です。
数字だけ見ると「ほんのわずかの上昇」と思う方も多いでしょう。しかし、この0.02%の上昇が意味するところを深く考えると、日本の住宅ローン市場、そして私たちのライフプランにとって重要なサインを送っているのです。
■「低金利の時代」から「じわじわ上昇の時代」へ
ここ20年以上、日本は超低金利の時代を生きてきました。私が不動産業界に入った2000年台前半は、変動金利の基準金利は2.375%で各金融機関は顧客の属性により金利優遇がありましたが、はじめは-0.5%や1%ほどでした。実質金利は 1.5%~2.0%台 で、今よりかなり高かったです。その後、変動金利の基準金利が2.875%まで上がりましたが、リーマンショックを機に2.475%にまで戻りました。優遇幅が -1.5%~-1.7% になるケースが増加し、実質適用金利は 0.7%~0.9% 程度に。2016年1月、日銀がマイナス金利政策導入で、史上最低水準に店頭金利は変わらず 2.475% だが、優遇幅は -1.8%超、実質適用金利は 0.4%台 も出現しました。各銀行は「ネット銀行 vs 都市銀行」で激しい優遇競争となっています。
住宅ローンを組む人にとっては、史上稀にみる「借りやすい」時代であり、特にフラット35のような長期固定金利商品は、金利が動かない安心感から高い人気を誇っていました。しかし、2025年に入り、状況は徐々に変わり始めています。今回のニュースにある「2カ月連続の上昇」は、単なる偶然ではありません。これは、日本経済の金利水準が構造的に変化しつつある兆候です。
■なぜ上がっているのか?背景にある3つの要因
今回の金利上昇の背景には、主に次の3つの要因が考えられます。
① 日銀の金融政策の正常化
長らく続いたマイナス金利政策はすでに解除され、日銀は徐々に金利を引き上げる方向に舵を切っています。インフレ率が目標の2%をやや上回る水準で推移する中、過度な緩和を続けることは難しくなってきています。
② 海外金利の影響
アメリカや欧州ではすでに金利が高止まりしており、為替や資本移動の観点からも、日本だけが超低金利を続けることは困難です。この国際的な金利環境の変化が、日本の長期金利にも波及しています。
③ 住宅ローン市場の需給バランス
新築着工件数の減少や人口動態の変化で住宅市場の需要は伸び悩む一方、金融機関側もリスク管理を強化しており、低金利競争の時代から徐々に収益重視の姿勢にシフトしています。
■0.02%の上昇で家計はどう変わる?
例えば3,500万円を35年、フラット35で借りるケースを考えてみましょう。
- 金利1.870%の場合:毎月返済額は約10万8,000円
- 金利1.890%の場合:毎月返済額は約10万8,500円
その差はわずか500円程度。年間で6,000円、35年間で21万円ほどの違いです。
「たいしたことない」と思うかもしれません。しかし、ここで重要なのは金利がどの方向に動いているかです。
もし今後、金利がさらに0.1%、0.2%と上昇したらどうなるでしょう?
0.5%上昇すれば、月々の返済額は約9,000円増加します。これは家計にとって無視できないインパクトです。
■固定金利の「安心感」が再評価される時代に
これまで「変動金利 vs 固定金利」という議論では、低金利の変動型を選ぶ人が圧倒的に多い時代が続いていました。しかし、金利が上昇局面に入ると、固定金利の価値が改めて見直されます。
フラット35はその典型です。「最初に決めた金利で、完済までずっと変わらない」という安心感は、心理的にも大きなメリットです。
特に、長期的なライフプランを考える子育て世帯や、将来の収入見通しに不安がある方には、固定金利の選択は有力な選択肢になり続けるでしょう。
■住宅購入を検討する人へのメッセージ
ここで私からお伝えしたいのは、「慌てる必要はないが、先延ばしも危険」ということです。
金利の上昇は、数カ月単位で大きく動くことはありません。しかし、方向性としては上がりやすい流れに入っているのは間違いありません。
住宅は「買うタイミング」が最も難しい商品です。価格や金利、ライフイベントなど、多くの要素が絡み合います。ただし一つ言えるのは、「買いたいと思ったときが買い時」であること。
金利が上がるかもしれない不安を理由に決断を急ぐ必要はありませんが、逆に「まだ下がるだろう」と先送りにするのは、これからの環境ではリスクになる可能性があります。
■まとめ──これからの金利動向をどう読むか?
フラット35の金利上昇は、住宅ローンを検討する私たちに「低金利神話の終わり」を静かに告げています。
日本の住宅市場は、今後も人口減少や建築コスト高、環境対応などの課題に直面します。その中で「金利の影響」はこれまで以上に大きくなります。
これから家を買う方、ローンを組む方は、「金利の動き」に敏感であることが重要です。そして、数字だけでなく、「将来の安心」をどう設計するかを意識してください。
私は、不動産業に携わるものとして、また一人の経営者として、「数字の裏にある流れ」を読み解き、これからも皆さんにお伝えしていきます。
出典:不動産流通研究所 https://www.re-port.net/article/news/0000079716/