石川県金沢市を本拠とするクラスコが、管理戸数22,614戸を突破し、北陸エリアで4年連続No.1を獲得したというニュースが発表されました。人口減少やインフレが重くのしかかるこの時代に、なぜ彼らは成長を続けられるのでしょうか。
このニュースを読み、単なる「戸数の拡大」以上に、賃貸住宅経営の本質的な変化を映し出していると感じました。
「守る管理」から「伸ばす管理」へ
従来の賃貸管理といえば、家賃の入金確認や設備の故障対応、退去時の精算など「守る管理」が中心でした。もちろんこれは必要な基盤業務ですが、それだけではオーナーにとって十分な価値を生みません。
一方、クラスコが提唱するのは「収益を伸ばす管理」。入居者に選ばれる部屋をつくり、結果としてオーナーの収益を改善するサイクルです。
これは経営哲学的に言えば、「自己保存」から「自己実現」への転換に似ています。生き残ることだけを目的とするのではなく、入居者や地域に新しい価値を提供し続けることで存在意義を拡張しているのです。
AIと現場の知見の融合
ニュースの中で印象的だったのは「チャレンジ価格」という考え方。AIによるデータ分析に加えて、地域を知り尽くした現場スタッフの感覚を掛け合わせ、従来の“なんとなく”の家賃設定を見直している点です。
心理学的に言えば、人は「高すぎる」と感じれば敬遠しますが、「納得できる理由」があればむしろ少し高いものを選ぶ傾向があります。これは「価格=価値」の認知的バランスに関する有名な理論とも重なります。
AIの数値が冷静な「根拠」を示し、現場スタッフが「人の感覚」を補完する。この組み合わせがあるからこそ、賃料の値上げも受け入れられるのです。
コンセプトリノベーション「Renotta」の力
私が最も注目するのは「Renotta」の仕組みです。全国500種類以上のデザインを用意し、「条件で選ぶ」から「好きで選ぶ」へと意思決定を変えている点は、消費者心理を巧みに突いています。
例えば「OTAKU LIFE」や「PREMIUM SAUNA LIFE」。単なる間取りや築年数ではなく、「自分のライフスタイルを叶えてくれる場所」という物語を提供している。これこそが“価格以上の価値”を感じさせる要因です。
哲学的に言えば、人は単なる「住む場所」を求めているのではなく、「生き方の舞台」を探しています。そこに物件が寄り添えば、多少の家賃差など問題ではなくなるのです。
仲介力とデジタル施策の融合
価値ある物件をつくっても、それが借り手に届かなければ意味がありません。クラスコはAIによる写真評価やバーチャル内見などを積極的に導入し、同時に店舗での接客体験も磨いています。
これは「テクノロジーと人間らしさの両立」。
どちらかに偏るのではなく、双方を掛け合わせることで、より広い層にリーチし、信頼を積み上げています。
地域社会への影響
インフレや人口減少が進む中で、賃貸住宅市場は縮小傾向にあります。そんな状況下で「選ばれる物件」を増やしていくことは、単にオーナーの収益改善にとどまらず、地域の持続可能性にもつながります。
賃貸住宅が空室だらけになれば、街は衰退し、治安や景観も悪化していきます。逆に魅力的な住まいがあれば、人が集まり、地域の活気が維持されます。クラスコの挑戦は、結果的に地域の未来を守る活動でもあるのです。
私の視点 ― 今後の示唆
このニュースから得られる学びは、不動産業界に限りません。
- 顧客満足を起点とする経営
入居者が「ここに住みたい」と心から思えるかどうか。その一点を突き詰めることで、収益も自然と伸びていく。 - データと感性の融合
AIやデジタルは便利ですが、それだけでは人の心は動きません。現場の知恵や人間的な接客との組み合わせが価値を最大化する。 - 物語を提供することの力
「住む場所」を「生き方の舞台」に変える視点。これはモノづくり、サービスづくり、どんな分野にも通じる普遍的な考え方です。
結びに
クラスコが4年連続で北陸No.1を獲得した背景には、単なる戸数の拡大ではなく、「人の心に届く経営」がありました。インフレや人口減少といった厳しい環境を前にしても、発想を変え、仕組みを変えれば、成長の余地はある。
私たち経営者にとっても、そして生活者一人ひとりにとっても、この姿勢から学べるものは多いはずです。
これからの時代、問われるのは「守る」ではなく「伸ばす」力。
そして、その中心にあるのは常に人の心だと、私は改めて確信しました。
出典：PRTIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000941.000006823.html
