2025年9月25日に発表された、VSG不動産による「団塊世代の所有不動産に関する調査」。
この調査から浮かび上がったのは、団塊世代が抱える“不動産の行き先”に関する大きな迷いと不安です。
調査では、半数以上が「家族と不動産の将来について話し合っていない」と回答し、さらに約47%が「まだどうするか決めていない」としています。
これは単なる個人の課題にとどまらず、社会全体に影響するテーマです。今回はこの問題を、経営者・コンサルタントとしての視点、そして心理学や哲学的な観点も交えて考えてみたいと思います。
不動産は「物」ではなく「物語」でもある
不動産というと、資産価値や市場価格といった「数字」で測られるものに思われがちです。
しかし実際には、その土地や建物には「家族の記憶」や「地域のつながり」といった目に見えない物語が刻まれています。
調査で「相続させたい理由」のトップに「資産価値があるため」が挙げられたのは当然ですが、16.7%が「先祖代々の土地を守るため」と答えた点にも注目したいところです。数字だけでは語れない“思い”が判断に影響しているのです。
哲学的に言えば、不動産は「モノ」であると同時に「意味」を持つ存在。だからこそ決断が難しく、先延ばしになりやすいのでしょう。
話し合い不足がトラブルの種になる
調査では、52.7%が家族と不動産の将来について話し合っていないと回答しました。
これは極めて大きなリスクです。
相続の現場で最も多いトラブルは、実は“財産の多い少ない”ではなく、“話し合い不足”。心理学的に見ても、人は「不確実性」に強い不安を覚え、そこから感情的な衝突が生まれます。
例えば、兄弟姉妹の一人が「この土地は売るべきだ」と考え、別の一人が「残すべきだ」と主張した場合、感情的なもつれが生じやすい。もし親が生前に方針を示し、家族で対話していれば防げたはずの争いが、決断の先送りによって深刻化してしまうのです。
老後資金・維持管理・税金 ― 三重苦の現実
団塊世代が不動産について悩む背景には、大きく三つの現実があります。
- 老後資金の確保
売却理由のトップは「老後資金」。年金だけでは生活に不安があり、不動産を資金化する動きが強まっています。 - 維持管理の負担
高齢になればなるほど、固定資産税・修繕・空き家リスクなどの管理が重荷に。 - 相続税の不安
「相続税の負担が大きい」という声が最多。節税対策を意識しながらも、複雑な制度に不安を抱えているのが現実です。
これらは“資産を持つ喜び”を超えて、“資産を持つ重さ”を意識させる要因となっています。
「決められない心理」とどう向き合うか
ではなぜ、多くの団塊世代が「決断できない」のでしょうか。
心理学的には、人は大きな決断を迫られると「先延ばし」という防衛反応を取りやすいとされています。相続や売却といった不動産の選択は、金銭面だけでなく、家族関係や人生観にも深く関わるため、心の負担が大きいのです。
しかし、決断を先延ばしにすることは「選択しない」という選択をしているに過ぎません。そしてそのツケは、次世代が背負うことになります。
これからの解決のヒント
では、どのように向き合うべきか。ここで私の考えるヒントをいくつか提示したいと思います。
- 早期の家族会議
まだ元気なうちに、家族と率直に意見交換をする。争いを避ける最良の方法です。 - 専門家の伴走
税理士・弁護士・不動産コンサルタントといった専門家を交えることで、感情論を整理しやすくなります。 - 「資産」から「活用」へ発想を転換
売却・相続・生前贈与という三択だけでなく、賃貸活用やリバースモーゲージといった方法も含め、多角的に考える。 - 心の整理を優先する
不動産を「モノ」としてだけでなく「物語」として捉え直し、自分や家族にとって何が大切かを明確にする。
社会全体への影響
団塊世代は日本の人口構成における“大きな塊”です。その世代の不動産の行方は、日本全体の住宅市場や税収にも直結します。
例えば、大量の不動産が一斉に市場に出れば価格変動を招き、逆に空き家として放置されれば地域の安全や景観に影響します。
つまり、団塊世代の「決断」は、家族だけでなく地域社会、ひいては日本経済にまで広がる問題なのです。
まとめ ― 決断の勇気が未来を守る
今回の調査から見えるのは、団塊世代が「迷い」と「不安」の中にいるという現実です。
しかし、この問題を“個人の悩み”として放置するのではなく、“社会の課題”として一緒に考えることが必要です。
哲学者ハイデガーは「人間は死を意識することで初めて真に生きる」と語りました。
同じように、私たちは「有限な資産の行き先」を意識することで、今をより良く生きることができるのではないでしょうか。
団塊世代の皆さんが、不動産を「悩みの種」ではなく「未来をつなぐ資産」として活用できるように。
そしてその決断が、家族の絆と地域社会をより豊かにしていくことを願っています。

出典:PRTIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000121.000102050.html