2025年8月のレインズ(不動産流通機構)の統計が発表されました。数字だけを見るとやや複雑ですが、要点を整理するとこうなります。
- 新規登録件数(市場に出てきた新しい物件数)は減少傾向が続いている。
- 成約件数(実際に売れた件数)は大きく伸びている。特に売買は前年比4割増という驚異的な伸び。
- 総登録件数(市場全体にある物件の在庫数)は売り物件では微増、賃貸では大幅減。
一言でいえば、「物件の新規供給は減っているのに、成約は増えている」。つまり、市場は「物件不足の中での活発な取引」という構図です。
売買市場が熱を帯びる背景
なぜ売買成約件数がこれほど伸びているのでしょうか。
1. 金利環境の影響
日本は長らく低金利が続いており、海外主要国のような大幅な金利上昇は起きていません。住宅ローン利用者にとってはまだ有利な状況です。「今のうちに買っておこう」という心理が働いている可能性が高いでしょう。
2. 物件不足による「見つけたら即決」傾向
新規登録が減っているため、良い物件は市場に出た瞬間に複数の買い手が競り合う状況になりがちです。この「早く決めないと買えない」という緊張感が、成約スピードを押し上げています。
3. 心理的な「先行き不安」
心理学の視点から見ても、人は不確実性が高まると「現物資産」に安心を求めやすくなります。株や暗号資産のように変動の激しい資産に比べ、目に見える不動産は「持っていて安心」という心理を与える。特に富裕層や相続対策を考える層にとって、不動産は依然として強い選択肢です。
賃貸市場の「停滞感」
一方で賃貸は苦戦しています。
- 新規登録件数は42ヵ月連続のマイナス。
- 成約件数も6ヵ月ぶりに減少。
- 総在庫は36ヵ月連続マイナス。
これは「空き家対策」「人口減少」「地方での需要減少」といった日本社会全体の課題を映し出しています。需要が弱いエリアでは賃貸経営そのものが難しくなりつつあり、オーナーにとっても戦略の見直しが迫られています。
ただし、これは必ずしもネガティブな話だけではありません。市場全体で供給過剰だった物件が整理され、本当に需要のあるエリアに人が集まる流れとも解釈できます。
媒介契約別の動向から見えるもの
成約件数の内訳を見ると、専任媒介や専属専任媒介での成約増加が目立ちます。
これは「売主が1社に任せて販売活動を集中させる方が、結果として早く売れる」ことを示しています。業界的にも「囲い込み」というネガティブな側面ではなく、「戦略的に売り抜くための選択」として専任化が進んでいる印象です。
ここから、不動産仲介業者に求められるのは「情報の鮮度」と「買主への迅速な提案力」です。レインズに登録されてから買主に届くまでの時間差をどれだけ短縮できるかが勝負になります。
このニュースから一般の方が学べること
不動産統計の数字は一見すると業界向けの情報に思われがちですが、私たち一般の生活者にも大きな示唆を与えてくれます。
- マイホーム検討者へ
新規登録が減少しているため、「条件の合う物件はすぐに動く」ことが大切です。迷っているうちに他の人が契約してしまう可能性があります。 - 投資家へ
売買市場が活況の一方、賃貸市場は停滞。エリア選びやターゲット層の絞り込みがこれまで以上に重要です。需要が見込める都市部や特定のニッチ(外国人向け、シングル向け、ペット可など)に戦略を集中するのが有効でしょう。 - 売却を検討している方へ
成約件数が伸びている今は、売却の好機ともいえます。在庫が少ないため、良い条件で売れる確率が高まっています。
哲学的に見た「市場の動き」
哲学を学んだ者として、少し視点を変えてみたいと思います。市場の数字は「個人の意思決定の集合体」です。誰かが「買おう」と思い、誰かが「売ろう」と思った積み重ねが、この統計に反映されています。
つまり、この数字は単なる経済データではなく、「人々の心理の鏡」です。安心を求める心、不安に備える心、未来への期待。そうした無数の心理の交差点に、不動産市場があるのです。
まとめ
2025年8月のレインズ統計は、「売買市場は物件不足の中で活況」「賃貸市場は供給・需要ともに縮小傾向」という対照的な姿を示しました。
この状況は、マイホームを買う人にとっても、投資家にとっても、そして不動産業界で働く人にとっても、それぞれに重要なメッセージを含んでいます。



出典 不動産流通研究所 https://www.re-port.net/article/news/0000079881/
不動産市場の動きは、経済や人口動態、そして私たちの心理の反映です。数字の裏側にある「人の思い」を読み解くことで、より良い判断ができるはずです。