2025年、首都圏の中古マンションは「狭くても買う」時代へ

― 面積縮小の裏側にある“静かな住宅危機”とは?


今日は、LIFULL HOME’Sが発表した「首都圏 中古マンション専有面積の調査」について、不動産業を営む者としての視点、そして哲学専攻らしく「人が住まいに何を求めているのか」という観点から丁寧に解説していきます。

2025年、首都圏の中古マンション市場は、いよいよ“ターニングポイント”を迎えています。
価格の高騰が表面上のニュースとして目立っていますが、その裏側でひっそりと、大きな変化が進んでいます。

それが 「専有面積の縮小」

数字だけを見ると単なるサイズの変化に見えるかもしれませんが、これは「暮らし方」と「住宅市場構造」の根本が変わりつつあることを示す重大なシグナルです。


目次

中古マンションの“反響専有面積”が 5年で6.54㎡も縮小

まず、発表の中核となるデータを見てみましょう。

  • 掲載専有面積の縮小:3.69㎡(68.39 → 64.70㎡)
  • 反響専有面積の縮小:6.54㎡(66.86 → 60.32㎡)

ここで注目すべきは、「反響専有面積の縮小スピードが掲載の約2倍」という点です。

これはどういうことか?

簡単に言えば、

「市場にはまだ広めの物件もある。しかし、買える人が減っているため、実際に問い合わせが集まるのは“より狭い物件”に偏っている」

という構造が起きているのです。

2025年の1年間だけで見ても、反響専有面積は1.61㎡(畳1枚分)縮小
数値以上に生活の実感としては大きな差です。

これは、住宅市場が多くの人にとって「背伸びしてようやく手が届く」領域から、さらに「無理をしても届かない」領域へ移りつつあることを意味します。


理由①:中古マンション価格が“たった5年で66.7%”上昇

今回の専有面積縮小の要因は、誰が見ても明らかです。
中古マンション価格の高騰です。

2020年〜2025年で、首都圏の中古マンション平均掲載価格は…

+66.7%(+3,319万円)

これはもう、異常値に近い伸び方です。

さらに東京23区のファミリー向け中古マンション(70㎡換算)は…

  • 平均:1億822万円(過去最高)
  • 前年比:+46%(+3,408万円)

これだけ見ると「もう買えない」と感じる人が増えるのは当然です。

しかも、反響価格(実際に問い合わせが入った物件の価格)だけは、前年比6.7%上昇に留まっている

これはつまり、

購入者側の予算は伸びていない。
価格上昇に“買い手の財布が追いついていない”。

という現実をそのまま数字が示しています。


理由②:妥協ポイントが「駅距離」や「築年数」ではなく、ついに“専有面積”へ

かつて住宅購入の妥協ポイントといえば、

  • 駅からの距離
  • 眺望や階数
  • 築年数
  • 設備仕様

などでした。

しかし2025年の調査では、

もっとも妥協されているのは専有面積だった。

という結果が明らかになります。

なぜか?

理由はとてもシンプルで、

価格以外の妥協余地がもう残っていないからです。

駅距離は10分以内、築10年以内、という条件で調査が行われているため、そもそも“他の要素は調査段階で揃っている”。
つまり “面積を削るしかない” 市場環境になっているのです。


40㎡台需要が増える未来 ― 単身・夫婦世帯の「現実的選択」

2025年、掲載されている専有面積の割合はこうなっています。

  • 70〜80㎡:27.3%で最多
  • 40㎡未満のシングル向けも一定の割合
  • 40〜50㎡の2人暮らし向けも堅調

この構造は、次の近未来を示唆しています。

✔ 中古マンション価格が高騰


✔ 60〜70㎡のファミリー向けが買えない

✔ 40〜50㎡台へニーズがスライド

✔ 単身・DINKS中心の需要がさらに増える

“狭くても買う”という選択が、合理性を持ち始めているのです。


国の住宅政策が市場に与える影響 ―「40㎡以上でローン控除」は追い風になるか

実は、国交省が2026年から住宅ローン控除の面積条件を 50㎡ → 40㎡に恒久化 する方針を表明しています。

これは市場にとって非常に大きい。

なぜなら…

  • 40㎡の1LDK
  • 45㎡のコンパクト2LDK

などがローン控除の対象となり、若い世帯の購入を後押しするからです。

しかもこれは新築だけでなく中古にも広がる可能性がある制度。
中古市場へのインパクトは大きく、今回のような“小さめの住戸への需要シフト”とも整合性があります。


【私の意見】専有面積の縮小は「危機」であり、同時に「価値観転換の始まり」

ここからは、不動産業者として、また経営者としての私の視点です。

今回のデータは、単なる価格上昇ではなく、

日本の住宅市場が一段階“構造変化”した証拠

だと考えています。

マンション購入が困難になることで起きるのは、

  • 可処分所得の圧迫
  • 育児環境の選択肢の狭まり
  • 若年層の“持ち家意欲の低下”
  • 老後の住まいリスクの増大
  • 地方移住の流れの再加速

といった社会的な連鎖です。

つまりこれは、個人の問題ではなく社会の問題

しかし同時に、私はこれを「新しい価値観の転換点」だとも感じています。

ヨーロッパでは50㎡以下の住戸が一般的で、
“広さよりも街の価値”を重視するライフスタイルが確立しています。

日本でも同じように、

  • “立地優先”
  • “無理をしない住まい選び”
  • “中古を育てる文化”

がますます重要になっていくでしょう。


不動産のプロとして伝えたいこと

最後に、日々不動産購入の相談を受ける立場として伝えたいことがあります。

✔ ① 面積は「暮らしの質」を左右する大事な要素

狭ければ固定費は抑えられる。
でもライフスタイルが窮屈になる場合もあります。

目先の価格だけでなく、10年後・20年後の生活として考えることが大事。


✔ ② 今後は「中古リノベ × 小さめサイズ」が主流になる

予算に対して無理なく、
自分らしい住まいを作れる選択肢です。

リノベの自由度が市場の閉塞感を和らげるでしょう。


✔ ③ 買える人は早く動いたほうがいい市場環境

悲しいですが、今の市場は
“待てば安くなる”状況ではありません。

ただし、焦って買うのも違う。

情報と判断の質がますます重要になります。


まとめ:専有面積の縮小は、私たちの「暮らしの価値観」を問い直されるサイン

2025年の中古マンション市場は、価格だけでは測れない“暮らしの変化”が起きています。

専有面積の縮小は、消費者がただ妥協しているのではなく、

「新しい現実の中で、最適な住まいを模索している」

という動きの表れでもあります。

これから住宅を検討するすべての方にとって、今回の調査は
“未来の住まい選びを考えるヒント”になるはずです。

引き続き、最新の市場動向を分かりやすく、誰も傷つけない形でお伝えしていきます。

出典:株式会社LIFULL https://lifull.com/news/45956/

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