賃貸不動産経営管理士試験3.1万人が受験 ― 賃貸市場の未来を左右する“管理の資格化”が意味するもの

2025年11月16日、今年も「賃貸不動産経営管理士試験」が全国で実施され、31,803名もの受験者が挑戦しました。
受験率は 87%。この数字は、資格への注目度だけでなく、賃貸管理の重要性が全国的に“再認識されている”証拠だといえます。

私は普段、不動産実務・投資家向けセミナー・契約チェックなど幅広く業務に携わっていますが、現場で感じるのは「管理レベルの差が、資産価値と賃貸経営のすべてを左右する」という厳然たる事実です。

このニュースを単なる“試験実施の話”ではなく、今後の賃貸市場の構造変化として捉え、誰も傷つけることなく、しかし本質に迫る形で解説していきます。


目次

賃貸不動産経営管理士とは何者か

すでにご存じの方も多いと思いますが、「賃貸不動産経営管理士」は2021年に国家資格化され、現在は 賃貸住宅管理業者における“業務管理者”として必須の資格となっています。

つまり、
「賃貸管理を名乗るなら、プロとして責任を持って管理せよ」
という国からのメッセージです。

法律の中で明記されているポイントは大きく3つ。

  1. 適切な賃貸管理業務の実施
  2. 賃貸住宅の安全・安心確保
  3. オーナー資産の保全・最大化

これらは当たり前のようでいて、実は現場で“ムラ”が出やすい部分です。
管理には、設備トラブル対応、苦情対応、入退去管理、契約更新、法令遵守、ハラスメント・トラブル対応、建物維持、収益管理…数え切れないほどの要素があります。

だからこそ「資格化」は、業界にとってひとつの転換点でした。


3万人超えは何を意味する?

ここ数年、賃貸不動産経営管理士の受験者数は右肩上がりで伸び続けています。

では、今年3.1万人超という受験者数は何を示しているのでしょうか。

① 管理業務の価値が本格的に認識され始めた

かつて「管理」は、売買の“影に隠れたサービス”として扱われることが多い仕事でした。
しかし今、管理の質は 空室率・賃料維持・資産価値・物件評価に直結し、オーナー経営における生命線となっています。

“管理はコストではなく、投資である”
これが徐々に浸透してきた結果が、受験者数の増加だと私は見ています。

② オーナー側の選別意識の高まり

経験的に感じますが、今のオーナーは管理会社を非常に細かく見ています。

  • レスポンスは早いか?
  • 法令遵守は徹底しているか?
  • 適切な修繕提案をしているか?
  • 客付け・更新率に偏りはないか?

資格保有者の有無は、オーナーが管理会社を選ぶうえでひとつの基準になりつつあり、不動産会社側も「資格者数=品質保証の象徴」と考え始めています。

③ 人材の専門化が一気に進み始めた

賃貸管理の世界は、どうしても人材不足になりやすい領域です。
しかし、資格化によって「キャリアとしての魅力」が生まれ、20〜40代の若手が明確なステップとして目指すようになってきました。

これは業界全体にとって非常に良い流れです。


資格登録されるのは2026年4月1日から

試験に合格しただけでは資格者にはなれず、

  • 実務経験2年以上
    または
  • 実務講習の修了

が必要です。

つまり、
「資格は取ったけど実務はできません」では通用しない仕組み
になっているのです。

これは業界の信頼性を上げるうえで非常に良い制度設計だと思います。


今後の賃貸市場に訪れる“3つの変化”

試験の普及は、単なる資格ブームでは終わりません。
私の見立てでは、今後の賃貸市場は次の3つの方向に加速していきます。


① “管理の質”が物件価値の基準になる

ここ数年、
「この物件はどの管理会社が担当しているか」
が、入居希望者や仲介現場から問われるケースが増えています。

これは売買市場と同じく、
ブランド化・可視化の時代
に入ったことを意味します。

管理内容が見える化されることで、
「管理の良い物件は長期的に価格が落ちない」という時代になっていくでしょう。


② 不動産会社の“管理力競争”が加速

・どれだけ資格者がいるか
・チーム体制はどうか
・法改正へのキャッチアップはどうか
・オーナー対応の質はどうか

これらが会社の競争力を決めるようになります。

実際、私の周りの不動産会社でも、
「売買より管理のほうが将来の安定収益になる」
という考え方が急増しています。

管理は地味ですが、実は非常に安定性の高い事業です。
そこに資格制度が乗ることで、業界全体のレベルアップが起こるでしょう。


③ 入居者トラブル対応が“法令ベース”に

昨今は入居者トラブルも複雑化し、

  • 生活音問題
  • ハラスメント
  • 近隣紛争
  • 原状回復トラブル
  • 外国人入居者対応

など、管理会社の判断が問われる場面が増えています。

法律知識・倫理観・対応ルールが整備されていることは、入居者の安全と安心に直結します。

資格保有者が増えることで、
“感覚”ではなく“法令・倫理ベース”の対応ができる管理会社が増える
この点は日本の賃貸市場にとって極めて大きいと感じます。


プロとしての視点:資格よりも“組織としての管理品質”が問われる時代へ

私自身、長く現場に携わって感じるのは、
「管理は、個人の能力よりチーム体制のほうが問われる」
ということです。

どれだけ資格者を抱えていても、
・修繕判断が遅い
・入居者の電話が繋がらない
・提案が後手後手
では意味がありません。

資格はあくまでスタートライン。

むしろ重要なのは、
管理会社が“組織としての品質”をどれだけ高められるか
という点です。

  • 情報共有の仕組み
  • トラブル対応の標準化
  • 定期点検のルール化
  • オーナーへの透明な報告体制
  • 収益最大化のための実務提案

こうした仕組みを整えている会社が、これからの賃貸市場の主役になっていきます。


最後に:賃貸管理はこれから“プロの時代”に入る

今回の3.1万人という受験者数は、
単なる資格ブームでも、業界のトレンドでもありません。

これは、
「日本の賃貸市場が、管理品質という軸で再構築されていく過程」
だと私は見ています。

入居者もオーナーも、安心して依頼できるプロが増えることは、市場全体のプラスです。

そして、管理会社にとっても、
“真の価値を発揮できる時代”がようやく来たとも言えるでしょう。

賃貸不動産経営管理士の皆さんが活躍し、
オーナーの資産が守られ、
入居者の安心が確保され、
誠実な管理会社が正当に評価される——。

そんな賃貸市場に少しずつ近づいている。
今回のニュースは、その一歩だと私は思います。

出店:一般社団法人賃貸不動産経営管理士協議会 https://www.chintaikanrishi.jp/pressrelease/entry/00437

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