2025年10月の首都圏中古マンション市場が、まるで熱を帯びたように活発化しています。
東日本不動産流通機構(レインズ)が発表したデータによれば、成約件数は前年同月比36.5%増の4,222件。東京都では約40%増、神奈川県ではなんと47.1%増と、全都県で大幅な伸びを記録しました。
これで12ヵ月連続の前年超え。平均単価も66ヵ月連続上昇と、いまや「右肩上がり」が常態化しているように見えます。
しかし、ここで問いたいのは——「なぜいま、中古マンションなのか?」ということです。
新築価格の“高止まり”が呼び込む中古人気
まず、背景にあるのは新築マンションの価格高騰です。
2025年時点で、都心新築マンションの平均価格は1億円を超え、もはや一般的な共働き世帯には手が届きにくい水準です。
一方、中古市場では「築20年超でも立地が良ければ高く売れる」「古くてもリノベーション前提で買う」という発想の転換が進みました。
これは、単なる価格の代替ではなく、“暮らしの選択の多様化”を反映しています。
「新築」=正義、「中古」=妥協、という価値観が崩れ、
「中古」=自分らしさを表現できる素材
として受け入れられる時代に変わったのです。
人々の“心理的転換”:モノよりも「居場所」
心理学的に見ると、近年の住宅選びには“自己表現”と“安心感”の2つの軸が強く影響しています。
- 自己表現(Self-Expression)
SNSやリモートワークの普及で、家は単なる寝る場所ではなく“自分を映すステージ”となりました。
「リノベして自分好みに仕上げたい」「中古でも街の雰囲気が気に入っている」という声が増えています。 - 安心感(Safety & Stability)
金利上昇のニュースが続く中でも、家を“資産”として持ちたい層が動いています。
インフレ懸念、将来の年金不安。そうした漠然とした不安を“所有”によって安心に変える。
この心理が、成約数の増加に確実に影響しています。
成約件数が増える一方で、“在庫は減少”
一方で注目すべきは、「成約件数が増えているのに、在庫は減っている」という点です。
2025年10月の新規登録件数は前年同月比4.4%減、在庫件数も4.8%減と、供給側が追いついていません。
つまり、“売れる物件が足りていない”状態です。
これが、価格上昇をさらに後押ししている構図です。
そして興味深いのは、成約物件の平均築年数が26.68年と上がっていること。
これは「築古でもリノベ前提で買いたい」「立地が良ければ古くてもOK」という購買行動が増えている証拠です。
要するに、“モノ”より“場所と可能性”を買っているのです。
神奈川・千葉・埼玉の台頭:郊外市場の成熟
今回のデータで特に目立つのは、都心だけでなく郊外エリアでも2桁増となっている点です。
神奈川47.1%増、千葉20.3%増、埼玉20.7%増。
これは単なる「都心が高いから郊外へ流れた」という話ではありません。
郊外でも駅前再開発や商業施設の充実、テレワークの定着などにより、「暮らしやすい街」としてのブランド力が高まっているのです。
たとえば千葉県市原市・五井エリアでは、駅前の再開発やシェアキッチン、クラフトビールなどの地域ブランド発信によって、“地元に住む誇り”が育ち始めています。
こうした動きが、中古住宅市場にも確実に波及しているのです。
“中古は資産にならない”時代は終わった
日本では長らく「中古住宅=価値が下がる」という前提がありました。
しかし、データが示すように、いまや中古でも資産価値を維持・上昇させられる時代に入っています。
その理由は明確です。
「立地」と「管理状態」、そして「リノベーションによる再創造」。
この3点が揃えば、築30年でも十分に資産として機能します。
私のクライアントの中にも、築25年の中古マンションを購入し、
700万円かけてフルリノベーションした結果、数年後に1,000万円以上高く売却した方がいます。
つまり、中古市場の拡大は単に“安いから売れている”のではなく、
“価値を創り出せる市場”に変わったということです。
今後の展望:2026年は“選別の年”へ
ただし、ここから先は少し様相が変わるでしょう。
金利上昇や物価高の影響で、買い手の資金計画に慎重さが戻ると見られます。
2026年は「立地・管理・価格のバランスが取れた物件」しか売れない、選別の年になる可能性が高いです。
数字の上では好調でも、“どんな物件でも売れる”時代は終わりを迎える。
市場が成熟するにつれ、買う側にも「情報リテラシー」が問われる時代になります。
まとめ:数字の裏にある“暮らしの希望”
今回の36%増という数字は、単なる統計上の現象ではなく、
「いまの日本人が何を求め、何に安心を感じているのか」を映し出しています。
人は“家を買う”のではなく、“未来の自分の安心”を買っている。
その本質を見誤らずに、数字の裏の「人の動き」に耳を傾けることこそ、
私たち不動産業に携わる者の使命だと感じています。


出典:不動産流通研究所 https://www.re-port.net/article/news/0000080308/

