首都圏マンション「平均1億円時代」

築40年超でも「億ション」 東京23区の中古マンション価格に思うこと

先日23区内で流通する中古マンションのうち、7戸に1戸が1億円を超えているというニュースがありましたが、2025年7月の首都圏(1都3県)の新築マンションの平均価格が再び1億円を突破したというニュースが報じられました。
「平均価格1億円」と聞くと、多くの方が「もう庶民には手が届かない世界だ」と感じるかもしれません。けれど、この数字の背景にはいくつもの要素が絡み合っており、単純に「高すぎる」と片付けられる話ではありません。今日は会社員からUターン起業、そして学生時代は哲学を学んだ者としての視点から、このニュースを読み解いてみたいと思います。


1.「平均1億円」という数字のトリック

まず、統計には必ず「平均値の落とし穴」があります。
たとえば東京23区の一部では超高額タワーマンションが次々と供給され、その販売が一気に数字を押し上げています。浦和や川越のように新興のタワマンエリアが伸びれば、埼玉県の平均価格すら7,000万円を超える。そうすると「首都圏平均=1億円」というインパクトのある見出しが生まれるのです。

しかし実際には、東京23区以外のエリアでは価格が下落しています。つまり、「全体が一律に高騰している」のではなく、「一部の超高額物件が数字を跳ね上げている」というのが実態です。

弊社が取り扱っているハワイ州オアフ島不動産では、毎月現地のリアルター協会が市場レポートを公開しており、その中では平均値だけでなく中央値の数字を出しています。私もオアフ島の市況を考える時にはこの中央値の方を重要視しています。それは、平均値は上記のように一部の超高級物件に数字が引きずられるからです。

例えば、A:4,500万円、B:5,000万円、C:5,000万円、D:6,000万円、E:10億円の5物件の平均値は2億4,100万円になるが、一方中央値、つまり真ん中で取引される値は5,000万円である。世の中の市況を考えるなら中央値の方が則しているように思います。


2.心理学から見る「1億円」という壁

心理学的に「1億円」という数字は特別な意味を持ちます。
「大台を超えた」という表現には、人々の感情を揺さぶる力があります。ちょうど株価が4万円を超える、円ドルが150円を突破するといったニュースと同じで、数字そのものがニュースバリューを持つと思います。

購買者の心理においても「1億円を超える物件=特別な価値がある」という印象を与えます。ブランド品の価格設定においても「高いからこそ欲しい」と思わせる「ヴェブレン効果」が働きますが、都心の高級マンション市場はまさにその典型です。

ヴェブレン効果とは、価格が高いほど「価値がある」と感じられ、需要が増える現象のことです。
通常は値段が上がると買い手が減りますが、高級品の場合は「高いから欲しい」と思わせる心理(自己顕示やステータス欲求)が働くため、むしろ需要が伸びるのです。


3.投資家と実需層の分断

今回の調査結果で注目すべきは、販売開始から即日完売する物件がある一方で、郊外の価格が下落しているという二極化です。
都心の富裕層・海外投資家・法人需要が旺盛で、数億円の物件が飛ぶように売れていく。その一方で、一般の子育て世代が求めるエリアでは価格が頭打ち、あるいは下落傾向も見られる。

この現象は、社会的に「住宅=生活の基盤」という考え方と、「住宅=投資資産」という考え方の分断を映し出しています。
つまり、「家を買う」という行為が、同じ首都圏に住む人々の間でまったく異なる意味を持ち始めているのです。


4.哲学的に考える「住まいの意味」

哲学を学んだ者として考えると、住まいは「人が人らしく生きるための拠点」であるはずです。
にもかかわらず、それが単なる投資商品として売買され、価格がニュースになる社会とは一体何なのか。

もちろん、資本主義の社会で「不動産が投資対象になる」のは自然な流れです。しかし、もし「住まい」が「暮らすための場所」ではなく「資産価値を守るための箱」になってしまえば、人は安心して根を下ろすことができなくなります。
そこに私は少しだけ寂しさを感じます。


5.これからの不動産市場の見通し

秋以降も高価格帯の供給が続くと予測されています。円安や海外マネーの流入もあり、都心の高級マンション需要はしばらく衰えないでしょう。
しかし同時に、人口減少・少子化・金利上昇リスクといった構造的な課題は避けられません。

郊外や地方では空き家が増え、価格が下がる一方、都心の一部だけが値上がりを続ける――。
この「二極化」は今後さらに進むはずです。資産価値を追求する人にとってはチャンスであり、生活者にとっては不安の源にもなります。


6.私たちにできる選択

最後に、読者の皆さんへの提案です。
「1億円」というニュースに過剰に振り回される必要はありません。大切なのは、自分や家族のライフスタイルに合った住まいを選ぶこと。

たとえそれが都心のタワーマンションではなく、郊外の一戸建てであっても、「自分にとって幸せを感じられる住まい」であれば十分に価値があります。
また、投資として不動産に関わる場合も、「数字」だけではなく「社会や人の暮らしにどう影響するのか」という視点を持つことが大切だと思います。


終わりに

首都圏のマンション平均価格が1億円を超えたというニュースは、確かにインパクトがあります。しかし、それは一部の高額物件の数字が引き上げた結果であり、すべての住宅が手の届かないものになったわけではありません。

「住まい」と「資産」の間で揺れ動く現代の住宅市場。
そこで私たちが忘れてはいけないのは、住まいが本来「人が安心して暮らすための場所」であるということ。
数字の裏にある現実と、自分自身の価値観。その両方を見つめながら、冷静に判断していくことが求められているのではないでしょうか。

出店:NHK https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250820/k10014898611000.html

築40年超でも「億ション」 東京23区の中古マンション価格に思うこと

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