粘り腰のGDP成長、その裏にある“静かな揺らぎ”

粘り腰のGDP成長、その裏にある“静かな揺らぎ”

8月15日に発表された4〜6月期の国内総生産(GDP)は、年率換算で実質1.0%増。これで5四半期連続のプラス成長です。日本の潜在成長率(ゼロ%台半ば)を上回る数字であり、名目では過去最高を更新。経済ニュースとしては一見、明るいトーンで報じられています。

しかし、数字の表面だけを見て「景気が回復基調だ」と安心するのは早計です。今回の成長を引っ張ったのは企業の設備投資ですが、その持続性には疑問符がつきます。実際、企業の現場では「この先の環境は不透明」という声が増え始めています。


成長のけん引役=設備投資の現状

今回、前期比で1.3%増えた設備投資は、5四半期連続のプラス。背景には企業のデジタル化(DX)推進や、建設分野の活況があります。ソフトウエア投資やビル着工が景気を押し上げる形です。

一方で、企業が未来に向けて投資を拡大するのは、あくまで「将来がある程度予測できるとき」です。米国の追加関税や欧州需要の停滞、そして世界経済全体の減速懸念は、企業にとって見通しを立てにくい状況を作り出しています。

例えば、機械工具大手のOSGは、不要不急の設備投資を来期以降に先送りする方針を発表。FA(ファクトリーオートメーション)部品大手のSMCも、米追加関税の影響で海外需要が鈍化し、国内受注が落ち込んでいます。


政策と景気の“タイムラグ”

経済の面白いところは、政策の影響がすぐに数字に表れるわけではない点です。内閣府の分析によれば、政策の不透明感が高まると、設備投資は2四半期後から大きく落ち込みます。つまり、春以降の米国の関税政策が、日本企業の投資意欲に本格的に影響を与えるのは、今年の年末から来年にかけて、という見方ができます。

こうしたタイムラグは、企業経営者にとって悩ましい問題です。「いまはまだ動けるが、半年後はどうか…」という迷いが、投資の決断を鈍らせるからです。


輸出と個人消費という両輪

設備投資が鈍れば、次に景気を支えるのは輸出と個人消費です。今回のデータでは、輸出は電子部品・デバイスが好調で2.0%増。ただし、これは一時的な需要や為替の影響を含んでおり、米関税引き上げや世界景気の減速が長引けば、すぐに風向きは変わります。

個人消費については、物価高のなかでも0.2%増と底堅い動き。ただし、実質賃金はマイナスが続いており、「頑張って消費を維持している」という状況です。これが続けば、家計の節約志向が強まり、消費がじわじわと減速するリスクがあります。


経済の土台は“信頼と見通し”

経営者として私が感じるのは、景気の数字を押し上げるのは「政策」や「短期的な需要」だけでは不十分だということです。本当に企業が投資や雇用を拡大するのは、先行きに対して“信頼”と“見通し”が持てるときです。

この信頼は、政治の安定性、国際関係の安定、そして国内の労働環境や人口動態の見通しによって支えられます。関税や国際摩擦のような突発的なリスクが頻発すると、たとえ今期の数字が良くても、中長期の計画は立てづらくなります。


“粘り腰”を本物の成長にするために

今回の年率1.0%成長は、決して悪い数字ではありません。むしろ、この環境下で5四半期連続のプラスは、日本企業と家計の底力を示しています。

しかし、本物の成長にするためには、いくつかの条件が必要です。

  1. 賃金上昇と消費の好循環
     物価上昇率を上回る賃金アップが続けば、家計の購買力が高まり、内需の安定につながります。
  2. 企業の投資意欲を支える政策
     税制優遇や補助金といった短期策だけでなく、国際競争力を高めるための長期的な産業戦略が重要です。
  3. 国際情勢の安定
     関税や地政学リスクが頻発すれば、企業は守りに入りがち。外交や通商政策の安定性は経済の下支えになります。

最後に ― 「数字の裏を見る」習慣を

経済ニュースでは、成長率や最高額といった“見出し”が目立ちます。しかし、その裏にある構造や流れを見ることが大切です。今回のGDPは確かに明るい面もありますが、そこには静かに忍び寄る不安も存在します。

私たち経営者や投資家、消費者も、この両面を意識しながら行動する必要があります。経済は“数字”だけでなく、“心理”でも動くもの。だからこそ、過度に楽観も悲観もせず、状況を冷静に見極める姿勢が求められます。

景気の波は必ず訪れます。重要なのは、その波に飲まれず、むしろ活用できる準備をしておくこと。年率1.0%の成長という「粘り腰」を、本当の持続的成長へとつなげるために、私たち一人ひとりが先を見据えた行動を取っていきたいと思います。

出典:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA14BQ20U5A810C2000000/?utm_source=newsshowcase&utm_medium=gnews&utm_campaign=CDAQ7oj5-6CHt9tYGMqf96iH-q2ntgEqKggAIhC7HvSW_G7gUYP7k946YGqFKhQICiIQux70lvxu4FGD-5PeOmBqhQ&utm_content=rundown

粘り腰のGDP成長、その裏にある“静かな揺らぎ”

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次