2025年上半期、建設業の倒産件数は986件。前年同期比7.5%増で、上半期として過去10年で最多というニュースが流れました。
背景にあるのは、資材価格の高騰と人手不足。この2つは、単に一時的な景気の波ではなく、日本の構造的な課題を映し出しています。
1. 資材高騰は「仕入れと販売価格のタイムラグ」の問題
鉄骨・木材・住設機器など、ほぼすべての建材価格が過去数年で大きく上昇しました。特にコロナ禍以降、物流停滞や国際情勢の不安定化が、輸入材の価格を押し上げています。
中小の建設業者にとっての問題は、価格上昇をそのまま販売価格に転嫁できないこと。受注から着工、そして完成までの期間が長い建設業では、契約時点の価格で仕事を請け負うことが多く、工期中の資材値上がり分を吸収しきれません。
これはまるで「固定金利で貸したお金が、途中でインフレに巻き込まれる」ようなもので、採算が一気に悪化します。特に、公共工事や下請け構造の中で価格交渉力が弱い企業ほど、この波に飲み込まれてしまいます。
2. 人手不足は「技術の継承断絶」の危険信号
もう一つの大きな要因は人手不足。若手のなり手不足、熟練職人の高齢化、転退職による流出が重なっています。
建設業は、現場ごとに異なる条件に合わせて仕事を進めるため、熟練の技術や勘が不可欠です。しかし、2025年は団塊世代の最後の層が70代に突入し、体力的な理由で引退する職人が急増すると予想されています。
この「技術の空白」は、単に人が足りないだけではなく、品質や安全面にも影響を及ぼしかねません。現場の効率化やDX(デジタル化)だけで解決できる話ではなく、経験値の積み重ねをどう継承するかが焦点になります。
3. なぜ中小企業が特に厳しいのか
大手ゼネコンは資材調達のスケールメリットやブランド力で価格転嫁がしやすく、採用面でも有利です。しかし、中小はそうはいきません。
資材は仲介業者を経由して仕入れ、価格交渉余地は限られます。採用においても、求人広告費や福利厚生で大手に劣り、人材確保が難しい状況です。
さらに、建設業は地域密着型の中小企業が多数を占めています。地域経済の縮小や人口減少が、仕事量そのものを減らし、経営を圧迫しています。
4. 倒産増加が地域に与える波及効果
建設業者の倒産は、単なる1社の終わりではありません。
・住宅や店舗の工事が途中で止まる
・下請け・関連業者への支払い遅延
・地域雇用の喪失
こうした影響は、地元経済にドミノ倒しのように広がります。
また、倒産後にその地域で施工できる業者が不足し、工事費が高騰する「逆スパイラル」も起こり得ます。結果として、地域住民の生活コストにも跳ね返ってきます。
5. 打開策は「分散・連携・付加価値化」
では、この流れを止めるにはどうすればよいでしょうか。
私は、次の3つの方向性がカギになると考えています。
- 分散調達と価格交渉力の強化
複数の仕入れ先を確保し、価格比較を常態化すること。共同購入の仕組みを地域内で作れば、資材単価を下げられる可能性があります。 - 地域内連携と業務シェア
人手不足を単独で解消するのは難しい。地域の中小業者が、繁忙期や専門分野ごとに人員を融通し合う「ネットワーク型経営」が有効です。 - 付加価値のある施工・提案型営業
単なる工事請負から、リフォーム提案・省エネ設計・資産価値向上など、顧客の「投資」に応えるサービスへ転換する。価格競争からの脱却がポイントです。
6. 技術継承は「教育産業化」する発想が必要
職人不足の解決には、技術を体系的に学べる場が欠かせません。OJT(現場教育)だけでは追いつかない時代です。
地域工業高校や職業訓練校との連携、オンライン動画教材の整備など、「教育産業化」した技術伝承の仕組みづくりが必要です。これは一企業ではなく、業界・自治体が協力して取り組むべきテーマです。
7. 「2000件」は単なる数字ではない
帝国データバンクは、このままでは2025年の建設業倒産が2000件台に達すると見ています。
これは2013年以来12年ぶりの水準ですが、重要なのは「件数」よりも「質」です。
単なる不景気倒産ではなく、構造変化への対応が間に合わずに市場から退出する企業が増えるという点に、本当の危機があります。
8. 最後に
建設業は、日本の街づくり・インフラ・住宅を支える根幹産業です。その倒産増加は、単なる業界ニュースではなく、地域の未来に直結する問題です。
資材高騰と人手不足。この二つの波は避けられませんが、連携・付加価値化・技術継承によって、波に乗る方法は必ずあります。
「建てられない街」にならないために、今こそ業界全体での知恵と行動が求められています。
出典:ITmediaビジネスオンライン https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2507/10/news016.html